「歳だから」は間違い! 認知症と間違えられやすい高齢者のうつ【精神科医の和田秀樹先生に教わる】

放置すると寿命にも関わる、男性の更年期障害

物忘れなどの認知機能低下も起こるので、認知症と誤診されることもあります。さらに、心筋梗塞など心血管疾患のリスク上昇、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性の悪化、LDLコレステロールの上昇とHDLコレステロールの低下などがみられます。メタボリックシンドロームの危険因子となっているので、寿命にも影響を与えます。

また、骨粗しょう症の原因にもなります。運動をして肉を食べても、筋肉がつきにくく、その分脂肪が増えるので、その後のフレイル(虚弱状態)や要介護状態につながることも珍しくありません。さらに、異性への関心がなくなるだけでなく、人付き合いもおっくうになるので、周囲の人との会話も減り、認知症のリスクにもなりかねません。

はらたいらさんは、長年、うつ病という診断を受けながら、うつ病の薬を飲んでもさっぱり症状が良くならなかったそうですが、この病気の診断後、男性ホルモンの補充治療を受けたことで、比較的速やかに回復されました。このように、男性更年期障害は、うつ病と誤診されやすい病気の一つで、高齢者にとっては、むしろうつ病よりも多い可能性があります。そう考えると、一度は、男性ホルモンの検査をしてみるのも賢明かもしれません。筋力の維持や意欲や記憶力の維持のためにも、男性ホルモンの補充は有効です。

女性の場合は、閉経後、男性ホルモンは増えることが東日本大震災後の調査で明らかになりました。女性が更年期以降、むしろ元気になったり、人付き合いが盛んになったりするのは、この男性ホルモンが増加する影響と考えられます。実際、高齢者の団体旅行の参加者に、女性がずっと多いのもこうした理由があるのかもしれません。

ということで、男性のうつ病がなかなか良くならない際は、男性ホルモンの検査をしてみることが重要です。検査の結果、値が低ければ、男性ホルモンを足す価値が十分あります。私の患者さんでも有効性はとても高く、アンチエイジングのクリニックでは、リピーターが最も多い治療になっています。

男性ホルモンの補充で、うつ病の症状改善も

うつ病の患者さんも、実は男性ホルモンの分泌が減ってしまうというケースが多くあります。そういった人に、治療で男性ホルモンを補充すると、完全には良くならないまでも、ある程度症状が改善したり、意欲が増すことがあります。そういう意味でも、男性ホルモンの値を知る検査は大切です。

一見、女性には関係ないことだと思われがちですが、女性も意欲が落ちている際などは、男性ホルモンを足すことがプラスに働くようです。私の患者さんでも、高齢になってもクリエイティブな仕事をしている人には、男性ホルモンを補充すると「意欲がわく」「頭がはっきりする」などと言われて、喜ばれています。
男性の場合は、注射で投与することが多いのですが、女性の場合は、それより量の少ない飲み薬で、十分効果を実感できるようです。

これまでも書いてきたように、うつ病やうつ状態は、元気で幸せな高齢期の敵と言えるものです。まずは、うつ病やうつ状態であることを見つけ出し、いろいろな方法でそれを改善していくのが、これからの人生のために大切だと、ぜひ知ってください。

【今回のまとめ】

・高齢者のうつ病は「歳のせいだから」と、見逃されることが多い。
・きっかけさえあれば思い出せる物忘れは、誰にでも起こる普通のこと。
・うつ病と認知症は、経過をしっかり観察することで見分けられる。

構成/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/たつみなつこ

この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年10月号に掲載の情報です。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

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