「歳だから」は間違い! 認知症と間違えられやすい高齢者のうつ【精神科医の和田秀樹先生に教わる】

「夜何度も起きる」「物忘れの自覚がある」は、うつ病を疑う

睡眠も、うつ病と認知症を見分ける手掛かりとなります。一般的には、うつ病の場合は、夜に何回も目が覚めることが多いものです。一方、認知症の場合は、脳の老化のせいで脳が疲れやすいためか、眠りが長くなりがちです。認知症のはずなのに、夜何回も目を覚ますならば、うつ病の薬を使う価値があると私は考えています。

うつ病と認知症の物忘れを区別する方法としては、「本人の物忘れの自覚」というものもあります。一般的に認知症の人は、特に中期以降になると、物忘れや自分の知的機能の低下に対して自覚がありません。物忘れをしていても認めなかったり、「歳をとったせいだから仕方ない」などと言います。それに対して、うつ病の人は、物忘れを悩むことが多いようです。

実際、私の外来でも、自分から「治療を受けたい」と相談に来ることが多いのはうつ病の人です。かなりの物忘れがあっても自分から治療を望むことはなく、家族に連れてこられるというパターンは、認知症の人がほとんどという気がします。ただ、初期の場合は、認知症であっても、症状を気にする人がかなりいますので、それだけで区別することは避けた方がいいでしょう。

いずれにせよ、うつ病の可能性が少しでもあるようなら、まずはうつ病の薬を試してくれる医者の方が、あてになるというのが、私の印象です。薬を飲んで、万が一、副作用が生じたら服用をやめればいいのです。特に前期高齢者の場合、認知症と決めてかからず、うつ病かもしれないと疑ってみることが必要です。うつ病の薬を使っても症状が良くならないのならば、認知症として先々のことを決めた方がいいのではないかというのが、私の長年の経験からの結論です。

うつ病と間違えられやすい、男性ホルモンの低下

高齢者の抑うつ、特に前期高齢者の抑うつの原因として、もう一つ、かなり多くみられるのが男性ホルモンの低下です。

男性にも更年期障害があることが知られるようになったきっかけは、漫画家のはらたいらさんが、この病気になったことを告白し、啓蒙のために自分の体験記を何冊も書かれたことです。しかし、まだまだ一般の人に広く知られるレベルまでにはなっていないようです。

ただ、医学の世界では、この病気への取り組みは進んでおり、治療を受けられる医療機関も増えています。現在では、正式病名を「加齢男性性腺機能低下症候群(late-onset hypogonadism(LOH)症候群)」と呼び、保険での治療も可能になっています。

アメリカでの調査では、60代の20%、70代の30%、80代の50%がこの病気にあたるレベルの男性ホルモンの低下が認められるとされています。症状が出るレベルということであれば、50歳以上の8%が該当するといわれています。

日本の場合、食生活や性生活を考えると、アメリカより、ずっと多いのではないかと私は考えています(日本には正確な統計がありません)。この病気は、はらたいらさんが経験したような、さまざまな身体のだるさや自律神経症状--集中力の低下、イライラ、ほてり、発汗、、めまい、疲労感など女性の更年期障害の症状に似たものです―の他、不眠、抑うつもよく起こるので、うつ病と間違えられやすいのです。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

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