「忙しくて睡眠時間を増やせない」睡眠の問題の先送りがもたらす「悪影響」【脳内科医が解説】

心配事のせいで眠れないのではなく、眠れないから悩む

眠れないと訴える患者さんの多くは「眠れない」ことだけを問題にしているわけではありません。眠れなくても元気であれば、病院に行くという行動にはなりにくいものです。

一方、朝の起きるべき時間に起きられないということになれば、そのことでクリニックを訪れる人はいます。

「眠れない」と「起きられない」はセットです。起きられないと困るということは眠れなくて困るということ。眠りに困難を感じた時点で、早めに原因を調べ、対処することが深刻な睡眠障害に陥らないための方法です。

頭痛が続く。どうしようもなく気分が落ち込む。物忘れが激しすぎる。そんなとき、不眠を自覚している患者さんであっても、自分は睡眠障害ではなく、「頭痛で眠れない」「心配事があって眠れない」などと思っています。

間違いとはいえませんが、それよりも「眠らないから頭痛が起きる」「正しい睡眠をとっていないから心配事にとらわれる」というプロセスになっていることを認識する必要があります。

眠れないから頭痛が起き、脳が休めないまま老廃物が溜まっていく。そしてやがては認知症のリスクへとつながっていく。

慢性的に痛みを感じる神経痛なども「痛いから眠れない」のが始まりではなく、眠らないから体に異常が起き、痛みなどの症状となって現れ、それでますます眠れなくなります。

睡眠障害というのは、脳機能の不調によってさまざまな症状が絡み合う併存疾患なのです。

睡眠不足の悪影響はすべてに及ぶ

人間の体は機械とは違います。不調な箇所の部品をとりかえたり、そこを修理さえすれば、不調が改善するわけではありません。

私たちの体は、37兆個とも60兆個ともいわれる細胞の集まりです。その一つひとつが神経でつながり、脳の指令を受けて機能しています。脳と腸の密接なつながりを指す「脳腸相関」という言葉が話題になりましたが、脳と腸だけでなく、すべてが影響しあって脳や心身が正常に働きます。

これを食べれば健康でいられる。これをすれば若々しく動ける。これを飲めば病気にならない、または病気が治る。そういう話題は注目を集めますが、なにか特定のものを食べたり、あるひとつの決まったことをするだけで元気でいられるわけがありません。

すべてはつながっているので、健康や病気を単体で語ることはできません。そのつながりを正すのが睡眠です。どんなに体に良いといわれることをしても、睡眠不足であれば十分な作用は得られません。どんなに最新の治療をしても、睡眠不足のままでは期待しているほどの効果は得られません。

良い睡眠はすべてに影響します。睡眠不足の悪影響はすべてに及びます。

睡眠障害による悪影響については、脳が死滅する認知症のほか、糖尿病、がん、うつ、不安障害や発達障害、パーキンソン病など、さまざまな症状が報告されています。1日の睡眠時間が4〜6時間の方は、心筋梗塞の発症率が5倍高まります。本書を読んで、「寝ないとヤバい」とみなさんが危機感を覚え、行動変容へとつながることを期待します。

 

加藤俊徳(かとう・としのり)
神奈川歯科大学大学院統合医療学講座特任教授
総合内科専門医・医学博士

新潟県生まれ。脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。 株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療。14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後、帰国後、慶應義塾大学、東京大学などで脳研究に従事し、「脳の学校」を創業。

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※本記事は加藤俊徳著の書籍『中高年が朝までぐっすり眠れる方法』(アチーブメント出版)から一部抜粋・編集しました。

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