加齢による筋肉量の低下が引き起こす、「サルコペニア」は認知症の発症や寝たきりになる要因となる可能性があります。今回は、東京都健康長寿医療センター 副院長の荒木 厚(あらき・あつし)先生に「自分でできるサルコペニアチェックやサルコペニアにならない生活習慣」についてお聞きしました。
【前回】閉経後の女性は特に注意! 筋肉が減少する「サルコペニア」の危険度チェック
サルコペニア肥満は早い段階で解消を
間食の習慣があると、体重や見た目はそれほど変わらなくても、気付かぬうちにサルコペニアになっていることがあります。
「食事のカロリーが多過ぎて、運動不足の人は『サルコペニア肥満』という状態になりやすいのです。これは筋肉は減っているのに肥満により脂肪が増えている状態です」と、荒木先生は話します。
サルコペニア肥満の場合、筋肉に脂肪が蓄積しているためエネルギー代謝が悪くなります。
筋肉は糖を代謝する組織なので、減少すると血糖値をコントロールするインスリンに悪影響を及ぼして高血糖を招き、その状態が続くことで糖尿病を発症しやすくなります。
そして、糖尿病を発症すると、さらに筋肉のエネルギー代謝に悪影響を及ぼし、筋肉量が減少してしまいます。
「サルコペニア肥満は糖尿病を悪化させ、糖尿病はサルコペニアを促進させます。まずは適切な食事と運動をしましょう」と、荒木先生。
サルコペニアと関係の深い骨粗鬆症や糖尿病などの生活習慣病は、食生活を見直すことで改善・予防が可能。
ときには薬での治療も効果的です。
「骨粗鬆症や糖尿病の治療薬は日々進化しています。必要に応じて治療を受けましょう」と、荒木先生は話します。
これからも元気に活動できるよう、寒い冬でもできるだけ体を動かすようにして、サルコペニアを予防しましょう。
《筋肉と骨を鍛えるレジスタンス運動》
いすや手すりにつかまりながらのスクワットなどが効果的。目安は、8~12回を1セットとして1日1~2セット。併せて、かかとを上げて落とす「かかと落とし」運動も組み合わせると、筋肉や骨の強化につながります。ひざ痛などがある人は、主治医に相談を。
《1日に必要なたんぱく質の量》
筋肉量を増やすには、筋肉のもととなるたんぱく質を摂ることが大切。1日の目安量は健康な成人の場合、体重(kg)×1g。サルコペニアの人は体重(kg)×1.2~1.5g。体重60kgの人は約70~90gとなります。ただし、腎機能が低下している人は主治医に相談を。
「サルコペニア」にならない生活習慣
週5日以上の有酸素運動を目標に
ウォーキングなどの有酸素運動は1日1~2回、食後に30分程度、週5日以上行うのが理想。スクワットなどの筋トレも組み合わせるとさらに効果的です。
食事は1日3食、バランスよく
食事は抜かず、肉類や魚類、豆類などのたんぱく質を毎食摂りましょう。食物繊維などが多いきのこ類、野菜、海藻も併せて食べると、バランスがよくなります。
生活習慣病はすぐ治療する
肥満や糖尿病はサルコペニアを悪化させます。健康診断などで疑いが出たら、放置は禁物。早めに診断・治療を受けましょう。最近は体に負担の少ない新薬も登場しています。
間食を控えて体を動かす
間食により肥満や高血糖状態が続くと、サルコペニア肥満を起こしやすくなります。特に運動不足の人は、間食はやめて体を動かす努力を。デザートは食後に少しだけ食べるように。
《サルコペニアの主な検査法》
身体・体力測定
整形外科やサルコペニア外来などで測定できます。握力(女性18kg未満、男性28kg未満)で筋力を判定。歩行速度(1.0m/秒以下)、5回のいす立ち上がりテストなどで身体の機能を調べます。
筋肉量検査
体に微弱な電流を流し、電気の流れやすさから筋肉量を求める「BIA法(生体電気インピーダンス法)」、X線により体の骨、脂肪、非脂肪に分類し、筋肉量を知る「DXA法(二重エ
ネルギーX線吸収測定法)」など。
血液検査など
血液検査で、栄養状態や血糖、腎臓や心臓の機能(はたらき)をみます。また、心臓や肺の機能が疑われる場合は、レントゲンの検査や心電図、心エコーなどの検査が必要に応じて
行われます。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史