雑誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師・作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回は 高齢になってから心配になるサルコペニアの予防法です。
最強の85歳もやっていた!
最近、とても感動した映画があります。『RBG 最強の85才』というドキュメンタリー作品です。
RBGとは、ルース・ベイダー・ギンズバーグの頭文字。
弁護士時代から一貫して女性やマイノリティの権利発展に努めてきた彼女は、クリントン政権時代に女性として史上2人目の最高裁判事になりました。
トランプ政権になってからは、権力におもねらず、堂々と反対意見を述べ続けています。
その釘を刺すような一言ひとことに、若者たちも拍手喝采。
実に痛快であっぱれな85歳なのです。
ぼくが注目したのは、彼女がジムで筋力トレーニングをしていること。
ぼくは「貯金より貯筋」なんていって、元気で長生きするには、高齢になっても筋肉を鍛え、日々運動することが大事と訴えてきました。
だから、ルースが筋トレをしている姿を見て、深く納得。
85歳になっても、言うべきことは言う攻めの姿勢を続けられるのも、土台となる筋肉がしっかりしているからではないか、などと勝手に思っています。
筋力の低下に注意しよう
筋肉は、25歳をピークに少しずつ減り始めますが、50歳ごろから毎年1%減少するといわれています。
これは加齢とともにだれにでも起こる現象なのですが、高齢になって心配になるのは、「サルコペニア」という状態です。
「サルコ」はギリシャ語で「筋肉」、「ペニア」は「喪失」を意味しています。加齢性筋肉減少症、つまり筋肉が減少して身体能力が低下する状態をいいます。
サルコペニアは75歳を過ぎると急激に増加し、80歳をこすと7割近くがなるといわれています。特に女性は、筋肉量が少なく、男性よりサルコペニアになりやすいので注意が必要です。
サルコペニアが怖いのは、高齢者のフレイル(虚弱)の入り口といわれ、要介護状態になってしまう可能性があるからなのです。
介護が必要になった人の2.4人に1人は、サルコペニアやフレイルを含む筋肉や骨、関節の機能低下が原因といわれているのです。
目安は、ふくらはぎの太さ
サルコペニアかどうか簡単にチェックする方法があります。
東京大学高齢社会総合研究機構が提案した「指輪っかテスト」です。
いすに座って、両手の親指と人差し指で輪っかをつくり、ふくらはぎのいちばん太いところを囲んでみましょう。
指とふくらはぎの間に隙間ができる人はサルコペニアの可能性があります。
ぴったりの人は要注意です。
指が届かない人は筋肉がやせていないと考えられ、サルコペニアの可能性は低いでしょう。
サルコペニアになると筋肉が減少するので、いすからの立ち上がりが困難になります。
40cmの高さのいすに座った状態から片足で立ち上がれない場合は、移動の機能の低下が始まっている「ロコモ度1」と判定されます。
また、歩行速度も落ちてきます。横断歩道を青信号のうちに渡り切れないなどの経験が多くなったという人は注意しましょう。
握力も弱くなり、ペットボトルのふたが開けられないなどの症状が出てきます。
「たん活」で筋肉づくり
サルコペニアにならないために重要なのが、たんぱく質いっぱいの生活「たん活」です。
日本人の多くはたんぱく質が足りません。
筋肉を増やすために、しっかりとたんぱく質を摂りましょう。
一日に必要なたんぱく質の摂取量は60g程度ですが、サルコペニアを予防するには70~80g摂る日があってもいいと思います。
食品に含まれるたんぱく質の量は、赤身の肉(牛肩ロース、100g) 16.5g、アジ (100g)19.7g、木綿豆腐(半丁)99g、納豆6.6g、チーズ(15g)3.4g、卵(1個)7.4g...です。
これだけ食べても63.5gなんです。
たんぱく質の量は意外と少ないので、いろいろな食品から摂るようにしましょう。
最近では、プロテインヨーグルトやプロテインミルクなどがスーパーなどで売られています。
味もよくなり飲みやすくなりました。
おかずの量が少ないという人は、こういうものを上手に利用して、たんぱく質を補給するとよいと思います。
パ・タ・カ・ラで、口腔フレイル予防
全身の筋力が低下すると、口のまわりのかむ筋肉も低下します。これを口腔フレイルといいます。
口腔フレイルになると、しっかりかむことができず、栄養不足になりがちです。
また、誤嚥も起こしやすくなります。
日本人の死亡原因の第5位は肺炎。
65歳以上の肺炎の多くが誤嚥によって起こる肺炎ですから、注意が必要です。
口腔フレイルの予防には、パ・タ・カ・ラと声に出してみましょう。
唇や口全体、舌などの運動になります。
食べる前に行えば、誤嚥予防になるので、むせることが多くなったという人はぜひ、やってみてください。
社会参加をしている人は元気
サルコペニア・フレイル予防として、社会参加も重要だといわれています。
筑波大学の研究チームの調査では、社会的なつながりが弱い人は、要介護・死亡リスクが1.7倍高まることがわかりました。
社会的なつながりが弱い人が、さらにフレイルになると、そのリスクは2.3倍にもなります。
趣味のサークルや仲間とのカラオケ、地域活動、ボランティアなど自分が楽しめるものを見つけ、積極的に活動しましょう。
ぼくは、6月に71歳になりました。
自分へのお祝いとして、新しいスキー板を買いました。
昨年は55日滑ったので、今年は60日ゲレンデに出たいと、今から気持ちが躍っています。