首痛を肩こりの延長くらいに考えてはいませんか? 実は首の骨の病気が潜んでいることがあるんです。例えば、首の病気で最も多い頚椎症だった場合、歩行障害に陥る可能性も...。そこで今回は、国際医療福祉大学 三田病院 整形外科 主任教授の石井 賢(いしい・けん)先生に「首の痛みの原因」についてお聞きしました。
あなたの「首の痛み」原因は何でしょう?
□(1) スマホやパソコンで作業している時間が長い
□(2) 頭が下を向いてしまうことが多い
□️(3) 首を反らすと痛い、首から腕に痛みが走る
□️(4)洋服のボタンをかけたり外したりがうまくできない
□️(5)足がもつれて歩きにくいことがある
□️(6)1日に10回以上、または夜間に3回以上トイレに行く
(1)に当てはまる人
ストレートネックかも
本来カーブを描いている首の骨が、まっすぐになってしまっている。首がこる、 首の関節の障害が起こりやすくなる。
(2)に当てはまる人
首下がり症候群かも
首が下がり、常にうつむいた状態に。前方を見ることができないので歩きにくい。食べ物がのみ込みにくくなる。
(3)~(6) に当てはまる人
頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアかも
神経が圧迫されている可能性がある。軽症の場合は手足のしびれのみが現れることが多い。 特に4~6に当てはまる場合は、脊髄が圧迫されている可能性があるので、早めに整形外科へ。
片手をまっすぐ前に出し、手のひらを握る(グー)・開く(パー)を繰り返す。10秒間にグーパーが10回未満の場合、神経圧迫の可能性があります。
首の病気で最も多い頚椎症で歩行障害にも
寒い時期に身を縮めていると、肩こりがひどく感じられることがあるでしょう。
家事や仕事、スマートフォンの操作などで前かがみの姿勢を続ければ、肩こりは生じやすいもの。
女性を悩ます症状の第1位は「肩こり」(2019年『国民生活基礎調査』)です。
ところが、単なる肩こりと思っていたら、実は首の骨の病気が潜んでいることがあります。
「首の骨の頚椎の代表的な病気は、頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアです。しかし、必ずしも首の痛みとなって現れるわけではありません。ひどい肩こり、腕や指のしびれ、歩行障害、排泄障害などで受診して、頚椎症などが見つかることも多いのです」と石井賢先生は警鐘を鳴らします。
私たちの首はこうなっています。
首の構造と断面図
[首の構造]
首には頚骨が7つ連なり、頚骨と頚骨の間に椎間板がクッションのようにあります。また、枝のように神経根も横に伸びています。
[断面図]
頚骨の間に椎間板があり、その後方の脊柱管に脊髄が通っています。脊髄からは神経根が伸びています。
発症のしくみ
【頚椎椎間板ヘルニア】
髄核が飛び出すなど椎間板が変形することで脊髄や神経根を圧迫し、痛みやしびれの症状につながります。神経根のみの圧迫では肩や腕の痛みやしびれが特徴です。
【頚椎症】
椎間板が老化で変形すると、頚骨も変形して脊髄や神経根を圧迫するようになり、箸が持てない、階段を下りられないなどさまざまな症状を引き起こします。
※関節面の軟骨が肥大増殖し、次第に硬くなって骨化して「とげ」のようになったもの
頚椎は7つの骨が連なり、骨と骨の間には椎間板があり、後方の脊柱管という空洞には、脳から骨盤まで脊髄と馬尾という神経の束が通っています。
脊髄は全身に関わる神経です。
頚椎症で骨が変形して脊髄を圧迫すると、肩こりがひどくなり、重症化すると腕や指のしびれで、箸が持てない、ボタンをうまく留めることができないなど不便を感じ、さらには、うまく歩くことさえ難しくなります。
つまり、隠れた「首の痛み」は全身の症状につながるのです。
「頚椎の骨と骨の間からは、神経根が枝のように伸びています。頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアで神経が圧迫されると、首以外の痛みやしびれを引き起こしやすいのです。もちろん、首の激痛に四六時中悩まされて受診される方もいます」
50~70代の首の病気の約7割を占める頚椎症には、1.頚椎症性神経根症、2.頚椎症性脊髄症があり、1と2では症状も治療法も異なります。
1は、加齢などで頚椎や椎間板が変形し、肩から腕の痛みやしびれが起こります。
ひどいときには、手の握力が低下するため、洋服のボタンをかけられない、ドアのカギが開けられない、箸を持てないなど、日常生活に大きな支障が生じることもあります。
一方、1と同様に加齢などで頚椎や椎間板が変形し、脊髄を圧迫する2は、肩こりや首の痛み、腕のしびれ、手先のしびれなど「手先の運動機能障害」から始まり、階段を下りるときに脚がガクガクする、つまずきやすいなど「歩行障害」が現れ、さらに進行すると尿が出にくい・漏れる、尿意がない、便秘が続くなど「排泄障害」も引き起こします。
「首の病気が自然に治ることはありません。運動療法や薬物療法、手術などの治療を症状に合わせて適切に受けることが大切です」
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史