気候が涼しくなり始めると、つい水分補給を忘れがち。また、歳を重ねるにつれて喉の渇きを感じにくくなるので、水分を摂る機会も少なくなってしまいがちです。そんなとき、ダメージを受けている臓器が腎臓になります。そこで今回は、東京医科大学病院腎臓内科主任教授の菅野義彦(かんの・よしひこ)先生に「腎臓の健康」についてお聞きしました。
こまめな水分補給は腎臓を守るために不可欠
暑さが和らぐ季節になっても、気温が高いときには熱中症対策が欠かせません。
こまめに水分を補給して涼しい場所で休んで...。
とはいえ、気候が涼しく感じ始めると、つい水分補給を忘れがちに。
加齢に伴い喉の渇きも感じにくくなるため、お茶を飲む機会も減っていきます。
このとき、ダメージを受けている臓器があります。
腎臓です。
ご存じですか? 「腎臓病」
急性腎障害
急激に腎臓の機能が低下する。腎臓の機能が回復する可能性がある。
慢性腎臓病
数カ月から数十年の長い年月をかけて腎臓の働きがゆっくりと悪くなる。腎不全の進行に伴って腎臓の機能が徐々に失われ、失われた腎機能が回復する見込みはほとんどない。
あなたは大丈夫?
腎臓に異常があるかも⁉︎ チェックリスト
上記の症状は腎機能の低下以外に、心臓や泌尿器系の病気などでも起こります。医療機関
の受診を。
「腎臓は尿を作っている臓器なので、体内の水分が不足すると機能が低下して悪影響を受けます。また、脱水状態では、細胞の水分組成バランスが崩れることで細胞が壊れ、そのゴミが腎臓に目詰まりを起こします。結果として、腎機能をさらに低下させることになるのです。水分不足は腎臓にとってよくありません」と菅野義彦先生は話します。
こぶし大の左右二つの腎臓は、「ネフロン」という小さな組織で成り立っています。
ネフロンは尿を作り栄養素を再吸収するなど、さまざまな働きを担っていますが、一つの大きさは約0・2mm。
片方の腎臓におよそ100万個あると推定されています。
一つのネフロンはとても小さい組織なので、水分不足や細胞のゴミが増えると大きなダメージを受けてしまうのです。
「熱中症のような脱水症状では、急激に腎機能が低下します。これを急性腎障害といいます。一時的に腎不全のように腎機能が働かなくなりますが、脱水症状が回復すれば腎臓も働くようになります。ただし、ダメージが大きいと、その後、腎機能が徐々に低下していく慢性腎臓病に移行することがあります」と菅野先生は警鐘を鳴らします。
慢性腎臓病というのは、多数のネフロンが機能不全に陥りつつある状態です。
ネフロンは1個の腎臓に約100万個もあるので、1個が壊れても他のネフロンがカバーできます。
でも、30万個壊れたら70万個でカバーしなければなりません。
50万個壊れたら残りの50万個でカバー。
このような負荷の大きい状態が続くことで、徐々に腎機能が低下していくのです。
やがて、正常な働きが全くできなくなり腎不全に陥りますが、その直前まで、自覚症状に乏しいのが慢性腎臓病の怖いところでもあります。
「腎機能は加齢とともに低下していきます。日常的に水分をあまり摂らない習慣もよくありません。熱中症以外に、高血圧などの生活習慣病でも腎機能は低下します」と菅野先生は注意を促します。
ちょっとした習慣や生活習慣病も、腎機能にとってはよくないのです。
腎臓の仕組みと役割
腎臓は、そら豆のような形をした握りこぶしぐらいの大きさの臓器で、背中側の腰の高さに左右1個ずつあります。
血液中の老廃物を取り出して尿を作る、体の「濾過装置」です。
(1)尿を作る
血液中から体に「必要なもの」と「不要なもの」を分別し、不要な老廃物、水分、塩分などを尿として排出します。
(2)血圧を調整する
血圧を調整するホルモン(レニン)を分泌し、体内の塩分や水分量を調節し、血圧をコントロールする働きがあります。
(3)血液を作る働きを補う
血液中の赤血球は骨髄で作られます。腎臓から造血刺激ホルモンであるエリスロポエチンが分泌され、骨髄での赤血球の増殖を促しています。
(4)体内環境を整える
体内の水分量やイオンバランスを適正に保つ、血液の酸性・アルカリ性のバランスを調節するなどの機能があります。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史