2020年1月、日本で新型コロナウイルス感染症の1例目が発表されて以来、私たちの生活は大きく変わりました。家にこもり、黙って食べ、人に触れない...。そんな味気ない日々に、疲れ果てた人も多いでしょう。そこで未知のウイルスとの闘いを乗り越えるためのヒントを鎌田實先生にお聞きしました。今回は「鎌田實さん、原田泰治さん、さだまさしさんによる、オンライン鼎談」をお届けします。
オンラインがいつでも会える笑える...をかなえてくれた!
鎌田 今日は忙しい3人がよく集まれたよね。これもオンライン会議システムのおかげだね。僕らは長男が泰治さん、次男が僕、三男がまさしさんという見た目は全く似てない兄弟みたいに付き合っているけれど、泰治さんとまさしさんは何年前からの知り合いですか?
原田 40年くらい前に、まさし君が僕の『さだおばさん』という絵本を気に入ってくれて、共通の友人の紹介で一度会うことになり、僕がまさし君のコンサートに行きました。まさし君はそのときまだロングヘアの青年だったなあ。
さだ それから仲良くなって、僕は泰治さんがいたので諏訪市に家を建てて一時期ファミリーで住んでいました。
鎌田 諏訪に住んだきっかけは、泰治さんだったのか! 僕とはまさしさんが諏訪に住み始めてからの付き合いになるね。諏訪の生活は楽しかった?
さだ 田舎暮らしを始めたいなと思ったとき、周りからは長野だったら軽井沢でしょうとすすめられたのですが、諏訪は織田信長も訪れたほど歴史がある街で、静かで住みやすそうだったし、泰治さんもいたので決めました。鎌田先生にも会えて、いまは恋人(?)のように毎日「風に立つライオン基金」のオンライン会議をして、感染が拡大して困っている医療スタッフや介護スタッフに必要なものを届けようと、ずいぶん何度も議論していますね。
鎌田 僕の暴走するアイデアを受け止めてくれてありがとう。僕が「医療用マスクや手袋が不足すると困るなあ...」と悩んでいたら、「じゃあ基金で購入しておいて、不足したときに配ろう!」と言って、すぐに行動してくれたまさしさんに感謝です。
さだ 医療物資と一緒に筆ペンでメッセージを書いて送るととても喜ばれます。実は筆ペンを僕と鎌田先生にずっと昔にプレゼントしてくれたのが泰治さんだったのですが、なんで僕たち2人に筆ペンを持たせてくれたのですか?
原田 まさし君は字が上手だったけど、鎌田先生はカルテの字が読めないほどビックリするような字を書いていたので、筆ペンだったら味のある文字を書けるようになるし、色紙に書いて人に贈るときにも味わいのある文字になると思ったからです。いまでは鎌田先生も上手になって、送った甲斐があってうれしいです。
鎌田 いまでもカルテと原稿は相当読みにくいみたいだけど、筆文字は泰治さんのおかげで褒められるようになりました。泰治さんは誰にでも面倒見が良くて、親切で、しかもその人をよく観察していいところを伸ばしてくれる人。優しいんだよね、泰治さん。
【鎌田先生の心得】
芸術は荒んだ心を豊かにする力がある。美しいものに感動するのが人間の喜びだ。
長いお休みと考えてできることをやってみた
原田 コロナ感染症が広がって人に会えない生活が続きましたね。僕は80歳を迎えて足で歩けなくなってしまい、車いす生活になりました。クルマの運転も卒業しました。いまはちょっと休憩の期間だと思って、絵も描かず、外出も控えて、いろいろ考えています。
さだ 僕も歌い出してから初めての長い長いお休みになって、いろいろ考え悩み、我慢して過ごしましたが、やはりコンサート活動を再開したかった。休んで立ち止まっているだけでは前に進めない、「動く勇気」を出そう! と思い、どうしたら安全にコンサートを開催できるかについてスタッフみんなで考えて企画を進め、9月から全国ツアーをスタートしました。
鎌田 素晴らしい勇気だね。まさしさんは新しいアルバムを発表し、『さだの辞書』(岩波書店)という本も出版したよね。泰治さんも『新版 原田泰治~野の道を歩く画家』(別冊太陽、平凡社)という作品集を5月に出版しましたね。
さだ コンサート活動ができなくても、自分の作品を発表できる場が持てるのは、アーティストとして恵まれているしありがたいことで、ファンの皆さんに支えられていることを実感しています。泰治さんも美しい諏訪湖のほとりに自分の作品が展示された美術館があるのは素晴らしいことですよね!僕の大好きな場所です。
原田 3カ月は休館していましたが、少しずつお客さんが増え始めました。まさし君が名誉館長を務めてくれている影響もあるね。ありがとうね。
鎌田 コロナ感染症の脅威が常に付きまとう生活がまだ続きそうだけど、心と体の健康維持はどうしていますか?
原田 僕は主治医の鎌田先生からのアドバイスを食生活に取り入れています。筋肉が減らないようにたんぱく質を摂るために毎朝チーズ、はちみつ、ヨーグルト、ゆで卵を食べ、野菜ジュースを飲んでいます。
さだ 僕も野菜ジュース、毎日飲んでいますよ。
鎌田 野菜が苦手な人は、野菜ジュースを続けてください。それと自宅でできる簡単な筋トレやストレッチを続けることも大切です。音楽、映画、演劇、絵画、彫刻などの芸術作品を鑑賞することは、心を豊かにしてやる気や優しさを取り戻すきっかけにもなります。
さだ 僕は被災地に自分の歌を届けることで聞いてくれた人たちから勇気をもらいます。もらった勇気を次の被災地に届ける...それが僕の役目、とてもやりがいがあります。
【さださんの心得】
歌で勇気を届け、僕も勇気をもらう。コロナ禍でも勇気のリレーを続けたい!
人と人のつながりが心を豊かにする
鎌田 泰治さんは通知表の美術の成績は悪かったそうですね?
原田 5段階評価で、1、2なんてこともありました。でも看板屋の父が、僕の絵をいつも褒めてくれました。それが大きな支えになりました。僕は足が悪くて行動が制限されていたので、逆にそれで絵を描くことに集中できたのかもしれません。好きなように行動できたら、気が散って絵が描けなかったかもしれません。動けない分、鳥の目、虫の目などを頭の中で想像して、筆を動かしていたのだと思います。
さだ 僕は泰治さんが絵を描くところを見せてもらったことがあるのですが、遠くの空や山から描き始めて、近くの木や田んぼを描くうちに、遠くの空や山がどんどん消えていってしまうのですが、そのおかげで近くの家や人が押し出されるような独特の遠近感が出て、親しみやすさを感じます。泰治さんの雪の絵は、実際の雪よりも本物に見えます。
鎌田 雪といえば僕がまさしさんと知り合って間もないときに、雪が降る諏訪の夜に3人で夜遅くまで飲んで、先にまさしさんをホテルに送ったときに、大雪が降る中、寒さを我慢して、僕らが見えなくなるまで、深々と頭を下げて送ってくれたまさしさんの姿を鮮明に覚えていて。あんな有名な人が、丁寧に深々と会釈して見送ってくれたことに感動して、きっとこれから長く付き合っていくだろうな...と感じました。
さだ 僕もよく覚えています。僕は若い頃からいままで自分が有名だという自覚が薄くて...泰治さんと鎌田先生と3人で本当に楽しい時間を過ごし、感動して感謝の気持ちでいっぱいだったのでしょう。
鎌田 その点では泰治さん、まさしさん、僕と、有名無名に関係なく人と付き合える特技は共通するね。やっぱり兄弟だね!
【原田さんの心得】
動けないから、不自由だから、違う視点で観察し見えてくる世界がある。
《公益財団法人 風に立つライオン基金》
国内外の僻地医療や大規模災害の復旧現場などで奉仕活動をする個人や団体に対し、物心両面からの支援を提供するための基金です。さださんが代表を務め、鎌田先生は評議員としてサポートしています。写真は岡山・総社市の水害被災地にて。さださんと鎌田先生によるトーク&ライブが行われ、茅野市のレストランのシェフらがボランティアで参加し、ステーキやうなぎ1500人分の炊き出しを行いました。一般の皆さんからの募金なども受け付けています。