「やりたいけど、まあいいか...」いろいろなことを先延ばしにしがちなあなたに、生きるためのヒントをお届け。今回は、3500人以上のがん患者と向き合ってきた精神科医・清水研さんの著書『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)から、死と向き合う患者から医師が学んだ「後悔しない生き方」をご紹介します。
「誰かの役に立ちたい」という気持ちが希望になる
川崎市在住の加茂あかりさんは、高校3年生のときに肝未分化胎児性肉腫という非常に珍しいがんが見つかりました。
2度の手術と、化学療法を受け、一時期消化器から出血して命が危ぶまれたこともあったそうです。
現在21歳で、治療は成功して再発は認めていないのですが、疲れやすかったり、集中力の低下、腹痛などの症状に悩まされたりすることもあります。
治療終了後は大学進学を目指していますが、まだ気力・体力ともに思うようについて来ず、彼女の中では将来への視界は開けていないようです。
そんな状況の中である日、彼女は私の外来にふらっと現れました。
髪を赤く染めておしゃれな彼女は、自ら受診を希望したにもかかわらず、初対面の私と目も合わさず、どこかふてくされているように見えました。
青年期らしい彼女の姿の中に、「病気にならなければこんなことにならなかったのに」という怒りややりきれなさを私は感じました。
私は彼女にどのように接したらよいのか、最初はとても戸惑いました。
彼女の好きなアメリカンコミックの話も、好きなファッションの話もまったくわからないので、今でも戸惑っていることが多いのですが、私のことを気に入ってくれたのか、2、3週間に1度私の外来に通っています。
面談の中では、その時々の状況を話してくれたり、たまにやりきれない気持ちを露わにしたりします。
私は、まだ将来の方向性が見えないことによる彼女の戸惑いを想像しながらも、奥底に秘めている大きなエネルギーを感じ、きっと彼女は問題ないだろうという確信めいた感覚を持ちながら、向き合っています。
そんな彼女が、「今自分が生きていることは、同じ病気になった人の力になるから」と話してくれることがありました。
加茂さんが肝未分化胎児性肉腫という病気になったとき、希少がんと言われるがんの中でも、特に珍しい病気であるため、ネットで探してもまったく情報が出てくることがなかったそうです。
そのときはほんとうに真っ暗闇の中にいるような感覚で、つらい治療と向き合っていたそうです。
自分自身のそんな経験から、彼女は『がんノート』という体験者のエピソードを動画で配信する情報サイトの存在を知って、『がんノート』を運営している岸田徹さんと患者会で親しくなったこともあり、自分の体験談を話すことにしたそうです。
加茂さんはある日、「今現在同じ病気の治療を受けている人がいると思うんです。その人たちにとって、自分が少なくともひとつの具体例になるし、自分が生きていることが大きな希望になる。だから、死ぬわけにはいかないんです」と語ってくれました。
過去の自分と同じ苦しみを今まさに体験しているであろう人たちのことを思いやるとともに、まだ見ぬその人たちの役に立つことが、彼女が生きるための原動力のひとつになっているようでした。
※事例紹介部分については、プライバシー保護のため、一部表現に配慮しています。
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病気との向き合い方、死への考え方など、実際のがん患者の体験談を全5章で紹介されています