「若くして死ぬことは残念だけど・・・僕は幸せだった」がん患者専門の精神科医が考えてほしい「大事な人との時間」

「やりたいけど、まあいいか...」いろいろなことを先延ばしにしがちなあなたに、生きるためのヒントをお届け。今回は、3500人以上のがん患者と向き合ってきた精神科医・清水研さんの著書『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)から、死と向き合う患者から医師が学んだ「後悔しない生き方」をご紹介します。

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大切な人との時間を何よりも優先する

人生の優先順位を考えたのち、多くの方がもっとも重要だと思うことは何だと思われますか。

それは、自分にとって大事な人との時間です。

大きな病気になると、いろんな困難が生じます。

今まで様々な問題を自分の力で乗り越えてきた人でも、「今度ばかりは立ち行かない」と感じることも少なくありません。

そんな時に、家族、友人、様々な方が手を差し伸べてくれるような体験をします。

そうすると、あらためて「自分はたくさんの人に支えられて今を生きているんだ」と思うようになります。

27歳でスキルス胃がんになられた岡田さん(仮名)は、若くして健康を失ったことに対する怒り、悲しみを経て、限られた人生をどのように生きれば自分の人生が有意義だと思えるようになるか、という課題に取り組まれるようになりました。

がんになった当初は、両親に対しても行き場のない怒りをぶつけることも少なくなかったようです。

岡田さんが入院中のことでした。

食欲がないときに言われたお母さんの「少しは食べたほうが良いのじゃない」という言葉にイライラが爆発し、「俺だって食べなきゃいけないことはわかってるんだよ。でも食べられないんだ!俺の何がわかるっていうんだ。もう帰ってくれ」と言ってしまいました。

お母さんが帰り支度をしているうちに、岡田さんの怒りはおさまってきて、八つ当たりをしたことの申し訳なさを感じたそうです。

「ごめんなさいね」と言い、少し涙ぐみながら病室を後にするお母さんの寂し気な背中を見て、岡田さんはむしろ切なくなり、「俺が悪かった。ほんとうにごめん」とお母さんに謝られました。

そのあと岡田さんは一時的に退院し、最後は緩和ケア病棟で亡くなられました。

退院した時、小さいころのアルバムを見たそうです。

そこには懐かしい子供のころの思い出があり、写真の一枚一枚にご両親のまぎれのない愛情がつまっていました。

そして岡田さんは「若くして死ななければならないことは残念だけど、でも僕は幸せだった。今までありがとう」という感謝の言葉を両親に伝えられたそうです。

あたたかく見守ってくれるのは家族だけとは限りません。

大腸がんになられた45歳の男性、長谷川忠之さん(仮名)のお話です。

長谷川さんはどちらかというと人付き合いが苦手で、会社の飲み会などにも参加せず、職場では寡黙な方だったそうです。

そんな長谷川さんが、大腸がんが原因で人工肛門をつけるようになって職場に復帰したとき、思いがけず声をかけてくれたのが、自分がずっと苦手だと思っていた部長さんでした。

実は、その部長さん自身も同じがん体験者で、人工肛門を長年使用してきたことや、こういうパッチがあって、入浴するときに貼ると重宝するんだ、などといろいろと話してくださったそうです。

長谷川さんは、気難しい人だと思っていた人からあたたかい気遣いをうけて、自分の中でなにかが変わったのだとおっしゃっていました。

今まで、長谷川さんにはどこか「他人は信頼できない」という感覚があり、初対面の人に対して警戒したり、引っ込み思案な自分がありました。

しかし、部長さんや、患者会などで様々な人と触れ合い、親切な気配りをしてもらう体験を経て、「確かに世の中には他人を傷つけるような人もいるが、人間というのは基本的にはあたたかいものなのではないか」という感覚が芽生えました。

それから長谷川さんは、職場でも自分から話しかけるようになり、人の輪に積極的に入っていきたいという気持ちが芽生えたそうです。

他人からの親切をたくさんうけ、「人間ってあたたかいんだな、と思うようになった」というお話はカウンセリングの現場ではよく伺います。

そして、他人にたくさん親切にしてもらったり、勇気づけられたり、支えてもらったりした経験が、自分も誰かの役に立ちたい、という気持ちにつながっていくようです。

※事例紹介部分については、プライバシー保護のため、一部表現に配慮しています。なお、登場する方々のお名前は一部を除き、すべて仮名です。

【最初から読む】がん患者専門の精神科医が伝えたい「人生で一番大切なこと」

【まとめ読み】『もしも一年後、この世にいないとしたら。』記事リストはこちら!

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病気との向き合い方、死への考え方など、実際のがん患者の体験談を全5章で紹介されています

 

清水研(しみず・けん)

1971年生まれ。精神科医・医学博士。2006年から国立がんセンター(現、国立がん研究センター)中央病院精神腫瘍科勤務となる。現在、同病院精神腫瘍科長。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医を務める。

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『もしも一年後、この世にいないとしたら。』

(清水研/文響社)

3500人以上のがん患者と対話してきた精神科医が伝える死ぬときに後悔しない生き方をまとめた一冊。病気への不安や死の恐怖とどう向き合えばいいのか、実際の患者の体験談とともに紹介。人生の締切を意識すると明日を過ごし方が変わり、人生が豊かになります。

※この記事は『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(清水研/文響社)からの抜粋です。
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