「自分が望んだ検査」や「ほしい薬」の処方をしてもらえず、お医者さんに満足できない...実はそれ、あなたの「病院のかかり方」に問題があるのかもしれません。そこで、多彩な情報発信をしている現役医師・山本健人さんの著書『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)より、「知っておくと、もっと上手に病院を利用できる知識」をご紹介。医師&病院の「正しい活用術」を、ぜひ手に入れてください。
診てもらう医者をこちらから指名することはできますか?できれば"名医"に診てもらいたいのですが......
【答え】
① 医者を自力で選ぶのはかなり大変です
② かかりつけ医に相談するのが最適な方法です
「名医」は患者さんによって異なる
本や雑誌、インターネットなどでよく「名医ランキング」を見ることがあります。
症例数(手術をした件数など)や論文数、紹介されたメディアのリストなどがランキングの根拠になっているようで、患者さんから見れば信頼に足る情報に見えることと思います。
また、テレビで「神の手」「スーパードクター」「カリスマ医師」などと紹介される医者もいるため、そういう情報に敏感になっている人も多いかもしれません。
こうした背景を考えれば、「名医」と呼ばれる人は確実に存在し、その人に診てもらいたい、と考える人が多いのも自然なことだと思います。
しかし実際には、どの医者がどんな分野を得意としていて、どのくらい優れた腕を持っているかを正確に判断するには、高度な専門知識が必要です。
医療の専門家同士であれば、実績や専門性に基づいて医者の得意分野とそうでない分野をある程度知ることはできますが、専門知識がない人が自力でそれを正確に調べるのは、かなりハードルの高いことだと言えます。
確かに、週刊誌などのランキングも目安になりうるとは思いますが、私たちは当然ながら、雑誌やテレビにはあまり出ない(出るのを好まない)優秀な医者がたくさんいることを知っていますし、メディアで取り上げられる医者は、全体のほんの一部であることも知っています。
何より、そもそも個々の患者さんに対する「この病気でこの状態ならこの医者が適切だ」という判断に、「一律の基準」を設けることはできません。
同じ病気の患者さんでも必要な治療が違うことはよくありますし、「誰に対しても同じ医者が最適」ということはありません。
それぞれの患者さんにとっての「名医」は一人一人違う、とも言えます。
医者として経験した症例数が多ければそれだけ経験値があり、技術的な信頼性が高いと見なす傾向もありますが、それがすべてではありません。
症例数は、地域性(その地域には他に治療のできる病院がないためA病院に患者さんが集中する)、病院のキャパシティー(A病院はベッド数が多く、多くの患者さんを受け入れることができる)などに影響されることもあるためです。
症例数そのものが必ずしも専門性の高さと結び付くとは限りません。
また、勤務医は一般的に転勤の機会が多い仕事です。
ある年のある疾患の症例数が多くても、専門医が別の病院へ異動すると、翌年に症例数が大幅に減ることもあります。
以上のような複雑な事情を考えると、「どの病院がいい病院で、どの医者が名医か」を知るのは簡単ではありません。
では、患者さんはどうすればいいのでしょうか?
ここで、最もおすすめできるのは、「医者に医者を選んでもらうこと」です。
つまり、地域のかかりつけ医にベストな紹介先を選んでもらうのです。
地域のかかりつけ医、つまり、各クリニックの医者は、「どんな病気ならどの病院に紹介状を書くのが最適か」をよく知っています。
同じ医療圏に属するさまざまな病院に患者さんを紹介する機会が多く、また、そうした病院とうまく連携することが患者さんにいい医療を提供する上で不可欠だからです。
クリニックの医者は、病院での治療が終わって戻ってきた患者さんを再び診ることができます(これを「逆紹介」と呼びます)。
自分が紹介した患者さんが、紹介先の病院でどんな検査を受け、どんな治療を受けたのかを知ることができるのです。
病院や医者についての詳しい情報が、クリニックの医者のもとに次第に蓄積していく仕組みになっている、と考えるとよいでしょう。
男性・女性の医者を事前に指名してもまったく問題ない
患者さんが医者を指名したいと考えるケースに、自分と同性の医者を指名したいという場合もあると思います。
そういったときに「言い出しにくい」と感じる患者さんもいるかもしれませんが、遠慮する必要はありません。
たとえば、私は、痔などの肛門の病気や直腸がんなど直腸の病気の患者さんに対し、お尻の診察をすることがよくあります。
その際、女性の患者さんから「男性に診られるのはどうしても恥ずかしいから女性の医者に替えてほしい」と言われることがあります。
「若い男性の医者に診られるのが恥ずかしいから年配の男性に替えてほしい」と言われたこともあります。
私を含め多くの医者は、こういう希望は率直に言ってもらった方がいい、と考えているでしょう。
医者を替えてほしいのに、そのことを言えないまま我慢して通院するのはよくありません。
当然、そんな状況では患者さんも治療に前向きになれないでしょうし、治療の効果にも悪影響を与えます。
こうしたコミュニケーションエラーを抱えたまま通院を続けるのは、お互いにとっていいことではありません。
なお、同性の医者を指名したいと考える場合は、病院に行く前に、電話で一度問い合わせてみるのがおすすめです。
たとえば、女性の患者さんが女性の医者に診てもらいたいと思っても、病院によっては男性の医者しかいない診療科があります。
女性の医者がいたとしても、外来の担当医は曜日や時間帯で決まっているため、患者さんが来院した日に女性の医者が外来業務をしているとは限りません。
男性の患者さんが男性の医者に診てほしいというケースでも同じです。
近年は病院のホームページで外来担当表を公開していることも多いので、事前に調べてみるのもおすすめです。
【まとめ】『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』記事リスト
医師や医療行為への「よくある疑問や不安」を、Q&A方式でわかりやすく解説! 「医学のスペシャリスト」を上手に利用するための「34のエッセンス」が詰まっています