「自分が望んだ検査」や「ほしい薬」の処方をしてもらえず、お医者さんに満足できない...実はそれ、あなたの「病院のかかり方」に問題があるのかもしれません。そこで、多彩な情報発信をしている現役医師・山本健人さんの著書『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)より、「知っておくと、もっと上手に病院を利用できる知識」をご紹介。医師&病院の「正しい活用術」を、ぜひ手に入れてください。
大した痛みもないのに検査や入院が必要だと言われ、大ごとになってしまいました。本当に必要なのかどうか疑わしいのですが......
【答え】
① 自覚症状がない病気もたくさんあるので注意が必要です
② 病気は、自覚症状と他覚的な所見をあわせて初めて診断できるものです
症状の強弱だけでは"病気の重さ"を推し量れない
みなさんが病気を心配して病院に行くのは、多くの場合、痛みや苦しみなどの「つらい症状」があったときだと思います。
これらの症状は、確かに病気のサインになることがあります。
そして、みなさんは無意識に、痛みや苦しみの強さの度合いで「自分の病気の深刻さ」を推し量るはずです。
つまり、「痛みや苦しみが強いほど、病気も重度なものであるはずだ」と判断するのです。
しかし、実はそうとは限りません。
「強い痛みだから重く深刻な病気」「ちょっとした痛みだから軽くてすぐに治る病気」というわけでは決してないのです。
たとえば、軽い胃もたれの症状で病院に来た人に検査をすると、進行した胃がんが見つかる、ということはよくあります。
逆に大きな大腸がんや胃がんがあっても、まったく無症状、という人もいます。
肺がんや膵臓がんなどもそうです。
多くのがんは、初期の段階であればほとんどの場合が無症状なのです。
また、「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓に起こる病気は、肝硬変にしても肝臓がんにしても、よほど進行しない限り症状は現れません。
糖尿病や高血圧などの生活習慣病も、ほぼ自覚症状はありません。
血糖値は血液検査を受ければ数値として異常がわかりますが、普段の生活では重度の高血糖でもなかなか自力で気づく手立てがありません。
また、よほど重度の高血圧になれば頭痛やめまいなどの症状が起こりえますが、多くの高血圧の患者さんはまったく自覚症状がありません。
血圧を測る習慣がない限り、高血圧という病気にかかっていることを自力で知ることはできません。
逆のパターンもあります。
症状はとても強いのに大きな病気ではない、というケースです。
たとえば、尿路結石は大人でものたうち回るほど痛みの強い病気です。
思わず救急車を呼び、激痛に悶えながら病院に搬送されるのが典型例なのですが、結石が膀胱に排出されるとウソのように痛みがおさまります。
そして、尿路結石はほとんどの場合、命に関わることはありません。
つまり、症状の強さと病気の重さは必ずしも比例しない、ということです。
「自覚症状と病気の重症度が比例しにくい病気と比例しやすい病気がある」と言う方が正確かもしれません。
そのせいで、患者さん自身が自覚症状から「検査や入院が必要かどうか」を知るのが難しい、とも言えます。
ちなみに、症状の強さと病気の重さが比例しやすい病気の例として、私の専門である消化器の分野で腹膜炎があります。
腹膜炎の症状の特徴に、少しでも動くとお腹に激痛が走る、痛みが強くて動けない、といったものがあります。
「腹膜炎なのにまったくの無症状」というケースは、よほどの状況を除けばまずありません。
ただし、高齢の方などの場合、重度の腹膜炎であっても症状が軽い、といったケースはありえます。
「同じ病気であっても、症状の現れ方は個々の患者さんによってさまざま」という点にも注意が必要です。
医者の思考プロセスを理解する
私たちがカルテ記載の方法を身につける際、「SOAP(ソープ)」という言葉を必ず学びます。
【医者は「SOAP」で方針を決める】
自覚症状などの主観的な情報を表すサブジェクティブデータ(S)、他覚的所見(客観的な情報)を意味するオブジェクティブデータ(O)、評価を意味するアセスメント(A)、計画を意味するプラン(P)の頭文字を合わせたものです。
医者の基本的な思考プロセスとして、①患者さんから聞いた自覚症状や病歴(S)と、②身体診察や検査によって得られる客観的な情報(O)を合わせて評価し(A)、患者さんに何をすべきか(P)を考える、という一連の流れがあるのです。
前述のように、症状の強さと病気の重さが比例しないことが多いのを医者は知っているため、自覚症状(S)だけを重視することはありません。
必ず他覚的所見(O)を考え合わせ、総合的に考察・評価し、次の一手を考えます。
一方、患者さんは自覚症状で初めて異常に気づくため、往々にして自覚症状に重きを置きすぎることがあります。
「こんなに症状がつらいのに医者が深刻にとらえてくれない」という思いを抱いてしまうこともよくあります。
強い痛みを感じたり、高い熱が出たりすると、「間違いなく重い病気だ」と決めつけてしまったり、逆に大した症状がなければ、「入院する必要なんてない」「治療は必要ない」と思ってしまったりすることもあるのです。
もちろん、医者は患者さんにしかわからない自覚症状を軽視してはいけません。
患者さんのつらさに寄り添い、共感を示した上で診断に必要なプロセスを説明しなければならないでしょう。
しかし、患者さん側としても、医者が診察室でどんなことを考えているのかを知っておくのは大切なことです。
自覚症状を過剰にも過小にもとらえることなく、落ち着いて病院に来ていただければと思います。
【まとめ】『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』記事リスト
医師や医療行為への「よくある疑問や不安」を、Q&A方式でわかりやすく解説! 「医学のスペシャリスト」を上手に利用するための「34のエッセンス」が詰まっています