冷え性や生理不順、むくみに便秘...「自分の体質だから」とあきらめていませんか? その悩み、毎日の食事などを少し意識すれば解決するかもしれません。ヒントとなるのは中医学(中国伝統医学)のセルフケア。そこで、東洋と西洋の医学に精通した医学博士・関隆志さんの初著書『名医が教える 東洋食薬でゆったり健康法』(すばる舎)から、中医学をベースにした「不調を治す食事&運動の考え方」を連載形式でお届けします。
©須山奈津希
鍼やお灸にはメリットがたくさんある
現代の西洋医学に、中医学などの伝統医学や民間療法を組み合わせることで、病気を改善したり、患者の生活の質を向上させたりする医療システムを「統合医療」と呼びます。
近年、この統合医療への注目が世界中で高まっており、その流れの中で鍼灸や指圧への注目も高まっています。
皮膚には刺激すると特定の内臓に特定の作用を起こすとされる「経穴」、いわゆる「ツボ」があります。
そのツボ同士や、ツボと内臓などをつなぐ経路である「経絡」に、鍼はりやお灸きゅうで刺激を与える治療方法が「鍼灸」です。
東洋医学では2000年以上にわたり、こうした鍼灸治療がおこなわれてきました。
その効用については、少し前まで医学的に解明されておらず謎に包まれていましたが、昨今ではそのメカニズムが解明されてきています。
実際に鍼灸の治療の中には、WHO(世界保健機構)でその効果を認定されているものもあります。
たとえば神経痛やパニック障害、頭痛などの痛みのコントロール、五十肩、関節炎、脳卒中による麻痺、アレルギー性鼻炎、尿もれ、月経困難症など、数多くの症状が鍼灸で緩和できると認められているのです。
こうした鍼灸治療の一番のメリットは、なにより副作用が少ないこと。
薬物を使用しないため、腎臓や肝臓が弱って代謝機能が落ちている高齢者の方や、持病のある方などにも利用しやすい点が魅力と言えるでしょう。
鍼灸の理論を活用し、自分の指を使ってツボを押す「ツボ押し」も、特別な器具などを使わず、災害時や緊急時のように薬もないときでも、いつでもどこでも気軽にできるので、ふだんの生活にとり入れやすいというメリットがあります。
さらに鍼灸は、検査をしても異常な数字や所見があらわれず、現代西洋医学では対応しにくい多様な「不定愁訴」に対応できる点も魅力でしょう。
中医学では患者さんの主観も重視するため、こういった症状にも正面から対応できるのです。
もちろん病院や鍼灸院などで鍼灸治療を受けてもいいのですが、まずは自分でツボ押しに挑戦し、健康な体の維持に役立つかどうか試してみることをおすすめします。
ツボの位置は一人ひとり微妙に違う
さっそく、ツボ押しの具体的な方法を解説していきましょう。
まず、ツボを押すときには、治したい症状に合ったツボを刺激するのが鉄則です。
ただ、いまある症状に合ったツボがどれか、正確に把握するには、多少の専門的知識やコツがいります。
たとえば、同じ症状でも、原因となっている証(中医学における体質や体調のタイプ)は異なることがありますし、原因になっている証がひとつとも限りません。
逆に複数の異なる症状が出ていても、ひとつの証が原因であれば、その証に合った食べものやツボへの刺激で、まとめて症状を改善できることもあります。
さらに、ひとつのツボは、漢方薬や食材と同じように複数の働きを持っています。
そのため、あるツボへの刺激は、症状の原因となっている複数の証に対して同時に効果をあらわすこともあります。
加えて、実際の治療では、同じツボでも症状と証によって刺激の仕方を変えることもよくおこなわれます(たとえば温めたり、冷やしたりなど)。
みなさんは専門家ではありませんから、こうしたツボの詳細についてまでは把握しなくてもかまいません。
ツボ押しについて触れている書籍を読んだり、専門家に相談するなど、現在の症状や体質・体調のタイプ(証)に応じて、対応するツボがどれなのかをまずは大まかに把握するようにしましょう。
それらのツボの位置を経絡の図などで確認したら、順に刺激していき、押して「気持ちいい」と感じるところを重点的に刺激するようにします。
逆に、押しても痛いだけのところは、刺激しないようにしてください。
一人ひとりの身長や体格に違いがあるように、ツボの位置も一人ひとり微妙に違います。
指による刺激によって、正確な位置を測っていき、「ここだ!」というところを刺激していきます。
これが、いまある症状に合わせたツボを選ぶときの基本です。
なお、ツボの位置を説明する文中では、一般に「指1本分」は自分の親指の幅、「指2本分」は自分の人差し指と中指を合わせた幅、「指3本分」は自分の人差し指と中指、薬指を合わせた幅、そして「指4本分」は自分の人差し指から小指までを合わせた幅を指しています。
たとえば、生理痛や冷え性に効果があるとされるツボ「三陰交」は、内くるぶしから指4本分上にあります。
また、気が集まるためにいろいろな症状に効用がある「丹田(関元)」は、おへそから指4本分下です。
安全にツボを押すコツ
体に不調を感じたとき、症状をやわらげるためにお風呂に入って体を温めたり、患部を使い捨てカイロや湯たんぽで温めたり、保冷剤や氷などで冷やしたりした経験のある人も多いのではないでしょうか。
ツボを刺激する方法も同じで、単に押すだけではなく、さする、温める、冷やす、低周波やレーザーを当てる、などさまざまな方法があります。
また、タイチエクササイズ(太極拳)のように、体を動かすことでも刺激できます。
基本となる指でのツボ押しでは、ツボに触れるときには軽く、やわらかく触れていきます。
特に知覚が過敏なツボには、軽く素早く触れることが重要です。
その上で、押すときには垂直に、まっすぐに圧をかけていきます。
この方法が一番無駄なく、圧が深くまで浸透します。
ゆっくりと力を加えて押していき、しばらくその圧力を持続したあとに、ふたたびゆっくりと力を抜きながら離していきます。
押したあと、グリグリとねじるのは避けてください。押されて"イタ・キモチいい"以上には押さないようにします。
また押していくときの時間と、圧力を持続する時間、そして力を抜いていく時間は、大体同じぐらいにします。
ちなみに、押す時間を長くするほど刺激量は増えます。
ツボを押すのに使うのは、手の指だけとは限りません。
広い範囲を押したいときには肘などを利用しても構いませんし、ツボが狭い箇所にあるときは、指の腹ではなく指先や爪を使って押すこともあります。
また、このように指でツボを押していると、指が疲れたり痛くなったりすることもありますので、そんなときはツボ押しのためのグッズや、ボールペンのとがっていない側などを利用して刺激するようにすると、ラクにツボ押しができます。
硬い床の上にテニスボールやゴルフボールなどを置いて、その上に横になったり、足で踏みつけたりすると、ひとりでも背中や足の裏のツボを刺激できます。
磁気治療器やパッチ鍼のようなものをツボに貼ることでも効果が得られますし、昔は青竹踏みをしたり、木の実をツボに貼ることもありました。
ツボを押す回数には決まりはありませんが、ひとつのツボに対して3回くらいを目安にして、やりすぎないように注意してください。
そして、できるだけリラックスしているときにおこないましょう。
こうしたポイントに注意しつつ、ツボ押しを食薬や運動と組み合わせておこなうことで、より高い健康維持効果を狙えるのです。
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