仕事に家事にと頑張って、倒れるように眠る毎日。朝起きると疲れは取れていないし、集中力もすぐ切れてしまう...。それ、全て「眠り方」に問題があるかもしれません。そこで、メンタルヘルスと睡眠の専門家・和田隆さんの著書『仕事のストレスをなくす睡眠の教科書』(方丈社)から、心身ともに健康を保つための「ストレス解消睡眠法」について連載形式でお届けします。
短時間の睡眠は肥満の原因
2005年にコロンビア大学が成人男女800人に対して行った、BMIと睡眠時間の関係についての調査によると、7~9時間睡眠をとっている人に比べて、5時間睡眠の人の肥満率は50%高く、4時間以下の睡眠の人は73%も高いことがわかりました。
これは、睡眠時間が短く活動時間が長いと食物を摂取する機会が増えるので、カロリーオーバーになるという単純な理由ではありません。
睡眠研究で世界の先端を行くスタンフォード大学医学部は、8時間睡眠をとっている人に比べて、5時間睡眠の人はグレリンという食欲増進ホルモンが14・9%増加し、反対に食欲抑制ホルモンであるレプチンが15・5%減少していると報告しています。
つまり、短い睡眠は「強い空腹感→食べ過ぎ→肥満」という悪循環を体内に作り上げてしまうというわけです。
改めて言うまでもなく、肥満は糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病を招きやすくし、これらの病気が重複して発症するメタボリックシンドロームとも密接に関係しています。肥満を放置すれば、高尿酸血症から痛風を招いたり、脂肪肝やすい炎にも大きな影響を及ぼすだけでなく、大腸がんや前立腺がん、乳がん、子宮がんなど、多くのがんのリスクを高めることも指摘されています。
また、肥満によって体重が増加すると、骨や関節への負担が大きくなり、腰痛や膝痛などの関節障害を起こしやすくなります。
おわかりのように、肥満は万病のもとです。肥満のリスクを低くするためにも、睡眠時間をしっかり確保するようにしましょう。
睡眠時無呼吸症候群は、あらゆる病気になるリスクを高める
肥満が引き起こす睡眠障害のひとつに睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome)があります。最近ではテレビの健康番組でもたびたび扱われる病気なので、おおよそのことはご存じかと思います。
医学的な定義では、睡眠中に10秒以上の気道の空気の流れが止まった状態を無呼吸とし、これが7時間の睡眠中に30回以上、もしくは1時間に5回以上あれば、睡眠時無呼吸症候群と判定します。
睡眠時無呼吸症候群は、その原因から2つのタイプに分けられています。
ひとつは、空気の通り道である気道が物理的に狭くなり、呼吸が止まってしまう閉塞性タイプ。もうひとつは、呼吸中枢の異常による中枢性タイプですが、9割は前者の閉塞性タイプです。
この閉塞性の睡眠時無呼吸症候群を招く原因のひとつが肥満です。肥満によって脂肪がたまるのは、胸、腹、二の腕だけではありません。首や喉まわり、舌の付け根、口蓋垂(こうがいすい;のどちんこ)などにも脂肪はたまります。肥満により気道が狭くなったり、仰向けに寝た時に脂肪がついた舌や口蓋垂が下がりやすくなり、気道を狭窄(きょうさく)します。こうしたことによって無呼吸になってしまうのです。
無呼吸になると、当然ながら血中酸素濃度が低下します。血中酸素濃度が低下すると、危険を察知した脳が呼吸をするように命じます。つまり、睡眠時無呼吸症候群の人は、無呼吸が起きた回数だけ、睡眠中に脳が起きていると言ってよいのです。これではよい睡眠がとれるわけがありません。
睡眠が悪ければ、免疫機能が低下します。睡眠時無呼吸症候群は、あらゆる病気になるリスクを高めると言われるのは、このためです。
現在、日本の睡眠時無呼吸症候群の潜在的患者数は250万人以上とも500万人以上とも言われています。会議中に眠ってしまう人、騒音だらけの電車の中でもいびきをかいて寝ている人を見かけますが、睡眠時無呼吸症候群を疑ってみる必要があると思います。
また、自動車を運転中の事故、鉄道のオーバーランなども、睡眠時無呼吸症候群が深く関係していると言われ、国土交通省も啓蒙に取り組んでいるほどです。
年をとったり、飲酒をしても筋肉は緩みます。舌や口蓋垂も筋肉なので、加齢や飲酒が無呼吸を促進します。また、もともと口蓋の骨格が大きければ、多少太ったとしても気道を狭める可能性はそう高くはありませんが、もともと小さい骨格の人は、無呼吸になりやすいと言われています。
ストレスと睡眠の仕組みを詳しく解説。自分のストレスを「見える化」できるチェック表も付いていて、すぐに対策もできる