年齢とともに、物覚えが悪くなったり、人の名前が思い出せなくなったりすることは誰にでも起こります。しかし、認知症は「老化によるもの忘れ」とは異なり、何らかの病気によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態を指します。
高血圧などが関わる血管性認知症について鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座環境保健学分野教授で、日本認知症予防学会理事長の浦上克哉先生にお話をお伺いしました。
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20年以上かけて発症する認知症。
若い頃からの対策で予防を
認知症はなってからではなく、なる前の対策が重要。これまでは、健常者と認知症の中間であり、いわば認知症のグレーゾーンであるMCI(軽度認知障害)での対応が重要視されてきましたが、最近になって、さらにその手前の「プレクリニカル」の時期から予防に取り組む必要性が指摘されるようになってきました。
プレクリニカルとは、認知機能は正常でありながら、脳の中ではすでに認知症の原因物質であるアミロイドβたんぱくの蓄積が起きている状態のこと。それは認知症発症の実に20年も前から始まっています。認知症は長い歳月をかけて進行します。
遺伝子検査で認知症のリスクが分かる!?
アルツハイマー型認知症と関係の深い遺伝子の存在が明らかになってきました。それが、「ApoEε4(アポイー イプシロンフォー)」です。この遺伝子を持つ人は発症リスクが高まると分かっており、遺伝子検査で調べることができます。
実際に発症するかは、生活習慣など遺伝子以外の要因が深く関係するため、必ずしも発症す
るわけではありません。
においで認知症を早期診断。嗅覚検査に注目
認知症の初期症状の一つに、「においを感じなくなる」という症状があります。例えば、食べ物が腐ったにおいが分からない、料理が焦げているのに気付かない、といった具合です。特にアルツハイマー型認知症では、記憶障害をはじめ、さまざまな症状が出るよりもずっと前から、嗅覚の衰えが始まっていることが知られています。嗅覚検査により、嗅覚の異常を早くから知ることで、認知症を発症する前から、予測ができるというわけです。
認知症の人の嗅覚が低下するのは、嗅覚野という、脳の中でにおいを識別する部位の機能が低下してしまうため。したがって、普段からアロマセラピーなどで嗅覚に心地良い刺激を与えることも、認知症予防には良い効果が期待できます
●嗅覚の衰えは認知症の始まりかも
アルツハイマー型認知症の場合、脳内にアミロイドβたんぱくがたまると、嗅神経が侵されてにおいが判別しづらくなります。すると、海馬にも障害を受け、徐々にもの忘れがひどくなります。
演奏やカラオケ、お絵描きも。音楽や芸術療法で認知症を予防
日本認知症予防学会で、予防効果のエビデンス(科学的根拠)が示され、注目されているのが、音楽・芸術療法です。中でも高い効果が得られるとして期待されているのが、楽器演奏。まだ認知症ではない健常な人が、認知障害を起こすのを防ぐ効果があるとされています。ほか、歌を歌う、絵を描くなどの芸術療法にもエビデンスが示されています。
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取材・文/佐藤あゆ美 イラスト/福々ちえ