遺伝子情報をきっかけに10㎏やせた医師の例/鎌田實「だまされない」

pixta_19941523_S.jpgテレビやネットにあふれるあやしげな健康情報や社会の思い込み。あなたはいつのまにか信じてしまっていませんか?

だまされないでください。
医師にして作家である鎌田實が50年近く医療に携わることで気づいた、健康のための王道をまとめた書籍『だまされない』で、「健康で幸せに生きるという目標」を達成するための技術を身に付けましょう。

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前の記事「友達が肥満だと自分も肥満になりやすい/鎌田實「だまされない」(5)」はこちら。

 

脳卒中を克服する

僕は43年前に長野県の病院に来て以来、ずっと健康づくり運動を続けてきました。塩分を好む土地柄だったこともあり、当時の長野県は脳卒中で亡くなる人が非常に多い地域でした。だから、まず塩分の過剰摂取を減らすことから始めました。

ところが、女性は積極的に参加してくれるのに対し、男性はあまり積極的ではありません。「どうせ遺伝だから、そのうち自分も親と同じように脳卒中になるし」と言って、塩辛いものを食べ続け、運動もしない人が多かったのです。「遺伝」という言葉にだまされていたのです。実際にそういう人のお家にお邪魔すると、塩辛い漬物のつくり方が代々受け継がれているなど、塩分の過剰摂取が生活文化として根を下ろしていたのです。これでは健康づくり運動を普及するのは難しいと、暗い気持ちになったものです。

しかし根気強く減塩の健康効果を説明していくと、家庭の食卓を仕切る女性たちが、少しずつ減塩のノウハウを身につけてくれました。すると「1カ月続けたら血圧が下がった」とか、「減塩したら体重が減った」などという声が聞こえるようになり、それがうわさ話で広がっていきました。やがて「わが家も減塩で元気になろう」と、いい意味で競い合うようになり、つられて男性たちも減塩に文句を言わなくなって積極的に参加するようになりました。いまでは長野県は、長寿日本一の県です。それまでは、脳卒中の死亡率が日本全国で1、2位を争う県だったことがウソのようです。

 

遺伝子検査を利用して生活習慣を変える

「自分の遺伝子を知ると、寿命や運命がわかってしまいそうで怖い」という声を聞きます。でもそれはちょっと違います。あくまでも人によって、です。自分にはどんな遺伝子があって、どんな病気になりやすいのか、あらかじめ知っていれば、それを予防する食生活や運動習慣を続ける気になる人もいます。病気を発症させる遺伝子が暴れ出さないようにコントロールできるのだから、実に有用なデータだと言えます。

大阪大学で臨床遺伝子治療学を研究している森下竜一先生と対談をしたことがあります。先生は肥満に対する遺伝子検査を6800円の検査キットを買ってやってみたそうです。自分で口の粘膜を綿棒ではがし、それを送るだけで検査が完了。5種類の遺伝子を調べたとのことでした。

すると、高カロリー嗜好派タイプの遺伝子や、内臓脂肪がつきやすい遺伝子、皮下脂肪がつきやすい遺伝子、筋肉がつきにくく、一度太るとやせにくい遺伝子などがあることがわかったそうです。また、普通の人より45キロカロリーほど基礎代謝量が少ないことがわかりました。基礎代謝とは特別な運動をせずとも自然にカロリーを消費する量のことです。これにより、先生は運動などでカロリーを消費しないといけないことがわかったと言います。

結局、先生は遺伝子検査をしてから10キロやせたそうです。「遺伝子検査のおかげではなく、病気になるのは嫌だから減量を始めた」とのこと。行き着くところは意識や生活の仕方が大事だということです。「玄米のなかにはガンマ・オリザノールという、脂っこいものを食べたくなる欲求を抑える成分が含まれているので、玄米を食べるのも1つの工夫です」とも言っていました。

ちなみに、森下先生は遺伝子療法による血管再生を世界に先駆けて研究する、血管の専門家でもあります。せっかくなので血管を若々しく保つために最も大事なことは何かと聞いたところ、「笑うこと」とのことでした。

遺伝子や血管に関する最先端の研究をしているドクターをして、行き着くところが「笑いが大事」、なのです。前述した免疫の専門家の三宅先生も、笑いの大切さを強調していました。医学の進歩により、笑顔で希望を持つ生き方が大事であることが科学的にわかり始めてきたのです。

将来的には、自分の遺伝子に合った予防法を行うことで、より確実に病気を避けることができます。食事の影響で糖尿病を発症しやすい遺伝子を持っているとわかれば、血糖値を上げにくい食事や運動療法を行えばいいのです。

 

鎌田流極意

いま、がんになる人が2人に1人、がんで死亡する人が3人に1人と言われます。
僕の場合はこういうときには「鎌田流」の考え方をします。がん遺伝子の検査はしてもしなくても2人に1人はがんになる時代、だから、がんになりにくくなるよう注意をする。

運動するとがん遺伝子のメチル化が強化されるので、がんが少なくなるというデータがある、だから運動をする。野菜を多く摂取すれば、そのなかに含まれる抗酸化力のあるポリフェノールという色素が慢性炎症を抑え、がん化をわずかでも減らしてくれる、だから野菜をたくさん食べる。

気づきましたか?
糖尿病にならないための注意も、がんにならないための注意も、高血圧症や脳卒中にならないための注意も、ほとんど同じなのです。糖尿病やがんになりやすい遺伝子がないからと安心し、生活に気を使わなくなってしまうほうがよほど怖いです。遺伝子を調べようが、調べなかろうが、つねに糖尿病やがんになるリスクがあると考え、毎日の生活を自分でコントロールしていく。そのほうがよっぽど健康的です。僕は自分にもそう言い聞かせています。
これが鎌田流の考え方です。

 

※『毎日が発見』本誌に連載した記事はこちら

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鎌田 實(かまた・みのる)さん
鎌田 實(かまた・みのる)

1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。

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『だまされない』
(鎌田 實/KADOKAWA)

社会は人をだます。人も自分をだます。実は自分の身体すらも自分をだましにかかってくる。そんな環境に生きながらも、幸せに生きるためにはなにを知るべきか、どうすべきか、どう考えるべきか。医師にして作家である鎌田實が、その答えに迫ります。健康問題から社会問題まで、翻弄される人々の目覚めを促す言葉の劇薬!

この記事は書籍『だまされない』からの抜粋です

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