年齢とともに、物覚えが悪くなったり、人の名前が思い出せなくなったりすることは誰にでも起こります。しかし、認知症は「老化によるもの忘れ」とは異なり、何らかの病気によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態を指します。
認知症が起こる原因や認知症の進行過程について鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座環境保健学分野教授で、日本認知症予防学会理事長の浦上克哉先生にお話をお伺いしました。
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認知症予防は中年期から!食事、運動、知的活動も
認知症の多くは、脳内にアミロイドβ(ベータ)たんぱくと、タウたんぱく質が蓄積することで引き起こされる脳神経細胞の死滅が原因です。初期段階では、脳内にアミロイドβたんぱくが蓄積し、その約10年後からタウたんぱく質の蓄積が始まります。それからさらに約
15年の間、アミロイドβたんぱくとタウたんぱく質の蓄積は続き、徐々に脳神経細胞を破壊してアルツハイマー型認知症を発症します。発症は、初期段階から20年以上もかかると考えられていますが、その原因ははっきりしていません。
●アルツハイマー型認知症の進行例
認知症の発症率は70歳ぐらいからが高いため、その多くは40~50代でアミロイドβたんぱくの蓄積が始まっていると考えられます。ですから、50歳前後になったら誰でも、他人事と思わず予防に努めましょう。
「予防できるリスクの中でも特に気を付けたいのが、糖尿病です。糖尿病の人は糖の分解が悪いだけでなく、アミロイドβたんぱくの分解も悪くなることが分かっています。また、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病、質の悪い睡眠、喫煙習慣なども認知症のリスクを高めます」と、浦上先生。
糖尿病や高血圧などの生活習慣病予防には、血管の健康管理が不可欠です。血管を健康に保つには、バランスの良い食事や適度な運動が大切。「食事は、多彩な食材をバランスよく摂るよう意識してください。中でもビタミンB12と葉酸が不足すると、脳の神経細胞の活動が低下します。葉酸はレバーや野菜類、ビタミンB12はしじみなどの貝類やレバーに多く含まれています。また、牛乳、乳製品など、普段不足しがちな栄養素を積極的に摂ることも必要です。自分で料理を作るのが大変な場合は、さまざまな種類の総菜が入った市販のお弁当などを利用するのもいいでしょう」(浦上先生)。
また、運動不足で筋力が衰えると、歩くのが遅くなったり、バランス感覚が悪くなるだけでなく、次第に動くこと自体がおっくうになります。すると外出の機会は減り、脳の働きが衰え、さらに運動量が減って認知症のリスクが高まります。「運動は、室内でできる軽い体操や散歩など、何でもかまいません。筋力の衰えは脳の衰えにつながります。楽しみながら長く続けられることを見つけましょう。さらに、楽器演奏や絵を描くなどの知的活動も認知症予防に大変役立つことが分かっています。これまで経験がないという方も、ぜひ挑戦してみてください」(浦上先生)。
認知症にならないためには、中年期からの生活習慣病を予防・改善することが必須です。その上で、バランスのとれた食事や運動の継続、知的活動などに努め、いくつになっても自立した生活を送りましょう。
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取材・文/笑(寳田真由美) イラスト/福々ちえ