年齢とともに、物覚えが悪くなったり、人の名前が思い出せなくなったりすることは誰にでも起こります。しかし、認知症は「老化によるもの忘れ」とは異なり、何らかの病気によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態を指します。
高血圧などが関わる血管性認知症について鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座環境保健学分野教授で、日本認知症予防学会理事長の浦上克哉先生にお話をお伺いしました。
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「聞こえづらい」はご注意。難聴を防いで認知症を予防
最近は難聴と認知症の関係が注目され、予防可能な危険因子の一つに挙げられています。つまり、「聞こえを保つ」ことが認知症のリスクを下げるというのです。
そもそも、どうして難聴が認知症に影響するのでしょうか。それは耳からの音の情報が減り、脳に入ってくる情報量が少ない状態が続いてしまうことが、認知機能の低下を招く恐れがあるからです。また、難聴になるとつい人とのコミュニケーションを避けてしまいがち。これも、認知症のリスクになると考えられます。難聴になっても、補聴器を活用するなどして聞こえを保つことは、認知症予防において、とても重要です。
日本人に不足しがちな牛乳・乳製品が認知症の発症リスクを下げる!
欧米人に比べ、牛乳・乳製品の摂取量が少ない日本人。ところが、日本人に不足しがちなこれらの食品に、実は認知症リスクを下げる効果があることが分かってきました。
認知症リスクを下げる食事として久山町研究で示されたのは、「牛乳・乳製品、大豆・大豆製品、野菜、海藻類の摂取量が多く、米や酒の摂取量が少ない」という食事パターン。中でも牛乳・乳製品は、摂取量を増やすほど、アルツハイマー型認知症、血管性認知症ともに発症リスクが下がるとの結果に。普段の食生活に、積極的に牛乳・乳製品を取り入れることが予防につながります。
●久山町研究で分かった認知症発症リスクを少なくする食事
【増やすとよいもの】
・牛乳・乳製品
・大豆・大豆製品
・野菜、海藻類
【減らすとよいもの】
・米
・酒
熟睡することで脳のアミロイドβを排出
睡眠も認知症の発症に深く関係しているといわれています。それは、認知症の原因物質であるアミロイドβたんぱくの脳からの排出が、睡眠中に行われると考えられるからです。
そもそもアミロイドβたんぱくは健常な人の脳の中でもつくられますが、通常は排出されていくため認知症にはなりません。ところが睡眠の質が悪いとその排出量が減り、脳内に蓄積していってしまうのです。
眠りが浅く、夜中に目が覚めてしまう人、睡眠のサイクルが乱れている人、また睡眠時無呼吸症候群の人も要注意。アミロイドβたんぱくの蓄積が始まる40代からしっかりと睡眠をとる習慣を身に付けましょう。
●「量」ではなく「質」の高い睡眠をとるには
・「メラトニン」の分泌を活発にする
夜になると眠くなるのは、メラトニンの作用。寝るときは部屋を暗くし、起きたらしっかりと朝日を浴びることで、メラトニンの分泌が活発に。
・アロマを利用する
副交感神経を刺激するアロマオイルの香りをかぎ、快眠に努めましょう。
真正ラベンダー(※)+スイートオレンジを2:1で組み合わせたアロマオイルが、浦上先生のおすすめです。
※真正ラベンダーとは、酢酸リナリルを35%以上含むもの。アロマセラピー専門店などで購入できます。
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取材・文/佐藤あゆ美 イラスト/福々ちえ