家族や職場の人は、発達障害の人とどのように接すればいいのか/大人の発達障害

「相手の気持ちが分からない」「その場の雰囲気を察することができない」「整理整頓ができず部屋中に物が散乱している」...。仕事や家庭生活でこんな悩みを持ち、「もしかしたら自分は『大人の発達障害』かもしれない」と考える人が増えているようです。以前は「発達障害」といえば子どもの疾患だと考えられていましたが、近年、大人になってからも症状が続くことが認識されるようになりました。テレビや雑誌などでも「大人の発達障害」として、「ADHD(注意欠如多動性障害)」や、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一種である「アスペルガー症候群」などが頻繁に取り上げられるようになっています。

発達障害とはどんな疾患で、どんな特性があるのかなどについて、発達障害の診断・治療の第一人者である昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生に聞きました。

家族や職場の人は、発達障害の人とどのように接すればいいのか/大人の発達障害 pixta_21301758_S.jpg前の記事「もしかして...あの小説やドラマの主人公が魅力的なのは発達障害のせい?/大人の発達障害(16)」はこちら。

 

●発達障害を周りの人ももっと理解してほしい

昨今、発達障害が注目されていますが、この疾患を正しく理解している人はまだ少ないといえます。おもに児童期の疾患と考えられていた発達障害が、大人になってからも症状が継続していること、それが問題で仕事や生活に影響を及ぼすことが分かったのは欧米で1990年代以降のこと。日本では今世紀になってからです。専門家である精神科医の中にも、発達障害の存在を否定する医師はいまだに存在しています。

 
●家族、周囲が発達障害を受け入れ、治療に協力を

子どもと日常的に接していて、その様子をよく分かっている親であっても、子どもが発達障害だと気付かず、本人はそのまま大人になるケースが少なくありません。また、仕事を持ち働いている親の場合、忙しくて子どもの細かい様子に気が回らないこともあるでしょう。ただ、親の記憶している本人の子ども時代の様子は、「大人の発達障害」を診断する上で、とても貴重な判断材料になります。

「子ども時代の様子を細かく書いた文章を親が持参するケースがあり、参考になります。その一方で、周囲から受診を促されて本人と一緒に病院に来たものの、自分の家系に発達障害という精神疾患が存在することを認めようとしない家族もいます。治療には本人、家族の病気への理解が不可欠です。それがないと治療を進めていくことは困難になります」と岩波先生。

 
●発達障害の特性が人間的な魅力になることもある

「大人の発達障害」の1回~16回までの連載記事を読んで、発達障害とは「はたして疾患なのか?」「個人の持つ特性(性質)ではないのか?」と感じた人もいるでしょう。本人のADHDやASDとしての特性はいつでも変わらないのですが、職場などの環境が厳しいのか寛容なのかによって、同じ行動をとっていても問題化するかしないかが変わってくるのです。ADHD、ASDの特性は見方によっては「長所」といもいえる場合があり、この特性こそが人間的な魅力として現れるケースもあります。特性を十分に生かして社会的に成功している人も大勢います。

「現在の社会は、一定の枠組みに当てはまらない人を排除する傾向があることは事実です。そのような社会の中で生きていくと、発達障害の特性を持つ人は職場で不適応を起こしやすいのです。発達障害の人たちを寛容に受け入れられるような社会が形成されていくことが望ましいと思います。少しでも多くの人たちが『大人の発達障害』を理解してほしいと願います」と岩波先生。

連載『大人の発達障害』1~17回はこちら。

 

取材・文/松澤ゆかり

 

 

岩波明(いわなみ・あきら)先生

昭和大学医学部精神医学講座主任教授、同大学附属烏山病院病院長。医学博士。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院、東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学精神医学教室准教授などを経て現職。著書に『発達障害』(文春新書)、『大人のADHD』(ちくま新書)などがある。

この記事に関連する「健康」のキーワード

PAGE TOP