「相手の気持ちが分からない」「その場の雰囲気を察することができない」「整理整頓ができず部屋中に物が散乱している」...。仕事や家庭生活でこんな悩みを持ち、「もしかしたら自分は『大人の発達障害』かもしれない」と考える人が増えているようです。以前は「発達障害」といえば子どもの疾患だと考えられていましたが、近年、大人になってからも症状が続くことが認識されるようになりました。テレビや雑誌などでも「大人の発達障害」として、「ADHD(注意欠如多動性障害)」や、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一種である「アスペルガー症候群」などが頻繁に取り上げられるようになっています。
発達障害とはどんな疾患で、どんな特性があるのかなどについて、発達障害の診断・治療の第一人者である昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生に聞きました。
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●ADHDの治療には内服薬が使われることがある
ADHDには内服薬があり、日本で認可されているのは「中枢神経刺激薬」と「選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」の2種類です。両方とも注意力を高めて多動や衝撃性を改善させる効果があります。どちらか一方の薬を試して効果が見られないときには、もう一つの薬に切り替えて様子を見ること多いです。薬物治療は症状に応じて半年から1年ほど続けるのが一般的です。ASDについては、現在のところ認可されている薬はありません。
<ADHDの2つの治療薬>
・中枢神経刺激薬
いくつかある中枢神経刺激薬のうち、日本で認可されているのは「メチルフェニデート徐放剤(商品名:コンサータ)」です。脳内伝達物質であるドパミンとノルアドレナリンの濃度を高めます。比較的短期間で効果が分かります。持続時間は10時間から12時間なので、1日1回、朝に飲めば夕方から夜まで持続。副作用としては頭痛、食欲不振、不眠などがありますが軽いことが多いです。
・選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
「アトモキセチン(商品名:ストラテラ)」があり、脳内のノルアドレナリンの濃度を高めます。少量から始めて1、2か月かけて段階的に増量していきますが、効果が実感できるまでに数週間かかることがあります。持続時間は24時間ですが、1日に1回、または2回に分けて服用。副作用としては、初期に吐き気などが起こることがあります。
●グループプログラムはASDにもADHDにも有効
精神科病院などでは、精神疾患の患者が生活リズムを作り社会性を身に付けることを目的とした「デイケア」を行っているところがあります。デイケアは精神疾患の中でも、うつ病や統合失調症の人を対象とすることが多いですが、少数の施設では発達障害の人を対象としたグループプログラムが設けられています。
例をあげると、昭和大学附属烏山病院ではADHDの人を対象とした「グループ療法」、ASDの人を対象とした「認知行動療法」が行われています。どちらも10人ほどの同じ疾患の人でグループを作り、社会性やコミュニケーション力を身に付けるためのプログラムを行っています。
ADHDの「グループ療法」ではグループ討論などを行います。仕事や日常生活で困っていることなどをディスカッションしたり、他の人がどのように対応しているかを聞くことは、疾患に対する理解を深める効果があるのです。普段、同じ疾患の人と接する機会がない人がほとんどなので、「自分と同じように悩んでいる人がいる」ということが分かるだけで、安心感が得られるようです。
ASDの「認知行動療法」では、対人関係のロールプレイ(場面や役割を決めて演じること)などを実施します。自分が演じるのも勉強になりますが、仲間が演じているのを見学することにも意味があり、そこから多くのことを学べます。
「ADHDのグループでは、『時間管理』『忘れ物対策』などをテーマにしたグループ討論が盛り上がりました。同じ悩みを持つ者同士の心地よい関係が築かれたようです。ASDのグループでは、趣味の鉄道の話を楽しんだり、時には一緒に遊びに出かけることもあるようです」と岩波先生。
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取材・文/松澤ゆかり