「相手の気持ちが分からない」「その場の雰囲気を察することができない」「整理整頓ができず部屋中に物が散乱している」...。仕事や家庭生活でこんな悩みを持ち、「もしかしたら自分は『大人の発達障害』かもしれない」と考える人が増えているようです。以前は「発達障害」といえば子どもの疾患だと考えられていましたが、近年、大人になってからも症状が続くことが認識されるようになりました。テレビや雑誌などでも「大人の発達障害」として、「ADHD(注意欠如多動性障害)」や、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一種である「アスペルガー症候群」などが頻繁に取り上げられるようになっています。
発達障害とはどんな疾患で、どんな特性があるのかなどについて、発達障害の診断・治療の第一人者である昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生に聞きました。
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●ADHDやASDの人が通える就労移行支援事業所がある
ADHDやASDなどの発達障害の人は、精神科病院などのデイケアにおける「グループ療法」「認知行動療法」を通して、社会性やコミュニケーション力を身に付けることができます。しかし、すぐには就労に結びつかないことが多く、さらに実践的な訓練が必要になります。
それを行うのが「就労移行支援事業」です。就労移行支援事業は障害者総合福祉法という法律で定められた「障害福祉サービス」の一つで、社会福祉法人、NPO、民間企業などが運営しています。利用したいときには市区町村に申請して認定を受けなければなりません。そして支給決定された後に利用が可能になるのです。就労移行支援事業は、発達障害に限らず精神障害や身体障害などさまざまな障害者を対象としていますが、中には発達障害に対象を絞った就労移行支援事業所もあります。
就労移行支援事業所には基本的に週5日通います。時間割に沿って1日5時間程度、就労に必要な講義を受けたり作業を行ったりします。ビジネスマナーやパソコン技術を学ぶ時間、数日間の職場体験実習もあり、実際の仕事に役立つ内容です。最大24カ月間利用することができます。
「通っていくうちに、自分がどんなふうに働くのかイメージすることができ、スタッフと相談しながら就労を目指すことができます。就労後も職場に慣れるまでは就労移行支援事業所に支援してもらえるので心強いといえるでしょう。最近は就労移行支援事業所でしばらく訓練を受けてから、障害者雇用(注1)で働くのが、一つの流れとして定着しつつあります」と岩波先生。
(注1)精神障害者保健福祉手帳を取得して、職場で配慮を受けながら働くこと
●就労移行支援事業所の利用料は所得に応じて支払う
就労移行支援事業所を利用するとき、世帯収入(本人と配偶者の収入)に応じて、下記の負担上限月額があります。それ以上の負担は生じません。
<負担上限月額>
・生活保護受給世帯:0円
・市町村民税非課税世帯:0円
・市町村民税課税世帯
(所得割16万円未満):9,300円
・上記以外:37,200円
【受診から就労までの流れ】
精神科病院、クリニックなどを受診...ADHD、ASDと診断される
↓
デイケア(グループ療法、認知行動療法)...社会性、コミュニケーション力を身に付ける
↓
市区町村...障害福祉サービス利用を申請し、認定を受けて支給決定
↓
就労移行支援事業所...実践的な就労準備として職業訓練、実習などを行う
↓
就労...障害者雇用または一般雇用
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取材・文/松澤ゆかり