首は、約5㎏という人間の頭を支える関節の中でも重要な部位。そんな重い頭を支える首には、大きな負担がかかり、筋肉の疲労やストレスなどによって痛みが生じやすくなります。また、関節からの痛み、骨と骨の間にあるクッションの役割である椎間板からくる痛みのほか、内臓などの深刻な病気が隠れている場合もあるので、手足にしびれがある、眠れないほどの激痛がある、痛みが長引く、高熱を伴うといったときは、要注意です。
さまざまな首の痛みの症状やメカニズム、原因と治療、首の痛みに効果的な運動の方法などを、自治医科大学整形外科教授の竹下克志先生にお聞きしました。
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第一に改善すべきは、日常生活での姿勢!
首に痛みを感じている人はおよそ1000万人といわれ、そのうちの約9割は、悪い姿勢やストレスから生じる筋肉の疲労による痛みです。とくに最近は、パソコンやスマートフォンの普及によって、首に疲労が感じやすい環境となっていますが、筋肉の疲労正しい姿勢や運動をすることで改善するケースが多く、重大な病状に進むものではありません。
一般的に「首」とよんでいる部位は、整形外科上では後頭部から肩甲骨周辺までを含めた広い範囲を指します。肩こりというときの「肩」も、ここに含まれると考えられます。首は小さな骨が連なっていますが、その周辺をさまざまな筋肉が覆っています。首から肩甲骨までを覆う一番大きな「僧帽筋」をはじめ、首の付け根にある「後頭下筋群」、頭部を安定させる「頭半棘筋(とうはんきょくきん)」などです。
人間の頭の重さは約5kgと重いため、それを常に支えている首周辺の筋肉に負担がかかり疲労が蓄積すると、痛みとなって表れるのです。
「筋肉は緊張したり弛緩したりして血流を調整していますが、筋肉中の血流がよければ、筋肉に十分な酸素が供給され、乳酸などの疲労物質はたまりません。反対に、筋肉の緊張が続くと血管が圧迫され、血流が悪くなります。すると、筋肉への酸素供給が不足し、疲労物質がたまり、痛みやこりなどを引き起こすのです」と竹下先生。
筋肉の疲労による首の痛みは、どのような人に起こりやすいのでしょうか?
●姿勢の悪い人
パソコンやスマートフォンなどで作業をして、知らないうちに頭が前に出た姿勢を続けてしまう、猫背で背中が丸くなっているなど、重心が前にかかると、首にかかる負担が大きくなります。いつも肩の片側だけにバッグをかけている人も、体のバランスが崩れて、首の筋肉が疲れやすくなります。
●女性
「なで肩」の人が多いことがあげられます。なで肩の人は通常より首が長くなり、頭を支える首や肩の筋肉に負担がかかります。また、理由ははっきりわかりませんが、月経、妊娠、更年期などで痛みに対して敏感になるともいわれています。
●目の疲れ・ストレス
交換神経を刺激して、首周辺の筋肉が緊張して血流が悪くなり、疲労物質がたまって痛みを引き起こします。目と首はとくに近いため、目が疲れると視神経を通して首周辺の筋肉が緊張します。
上記のような症状がある人で、X線、MRI、超音波、血液、尿の検査などで重大な病気がないと判明した場合は、以下のような生活指導と薬物療法・理学療法などの治療で改善します。
■日常生活のなかで首に負担がかかる習慣を改める
・頭が背骨の真上に来るように姿勢を正す
・同じ姿勢を続けず、15分~30分に1回休憩を取る
・適度な運動で血流を促す
・夏場はエアコンで首や肩を冷やさない
・バスタブに浸かって体を温め、血行をよくする
■痛みが強い場合は、医療機関で薬物療法や理学療法を行う
・首の筋肉をもみほぐす
・首の筋肉を温める
・薬物療法を施す(消炎鎮痛剤の湿布や内服、筋弛緩薬の内服、局所麻酔薬などの注射)など
「首の痛みに手足のしびれを伴う場合は、単に筋肉の疲労による痛みではなく、頚椎などの異常で神経が圧迫されていることが考えられます。代表的なのは、頚椎症と頸椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニアです。椎間板は骨と骨の間にあり、クッションの役割をしていますが、この中にある髄核が飛び出して神経を圧迫してしまうのです」(竹下先生)
病気が進行すると治療が難しくなり、手術が必要になってしまうこともあります。早期に発見するためにも、自分でチェックする方法もあるので、試してみるとよいでしょう。
首を上に反らすと、首の痛みとともに腕がしびれる
→神経根が圧迫されている可能性あり
首を前に曲げると、首や背中、胸腹、足に痛みやしびれが起こる
→脊髄が圧迫されている可能性あり
また、骨へのがん転移や感染症など深刻な病気である場合もあるので、とくに眠れないほどの激痛があるとき、痛みが長引くとき、高熱を伴うときは、要注意です。頭の病気と関連している場合もあります。整形外科、神経内科、脳神経外科などを受診して、重大な病気が隠れていないか調べることが大切です。
次の記事「首の痛みに関係する「頸椎(けいつい)」ってどこにあるの? 手術をしなくても改善する?(2)」はこちら。
取材・文/古谷玲子(デコ)