「食欲がない」「胃がもたれる」「胃がキリキリと痛む」......誰もが一度ならず経験があるのではないでしょうか。胃の調子は健康のバロメーター。不調であれば、「食べた物が悪かった?」「それともストレスが大き過ぎた?」と考え、食べる量を控えるなどして、胃の健康を保とうとします。なぜ、胃の調子は悪くなってしまうのでしょう。しょっちゅう起こる胃痛や胸やけから、胃食道逆流症、胃潰瘍や胃がんまで、兵庫医科大学病院副病院長の三輪洋人先生にお聞きしました。
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炎症がなくても胸やけを感じる
「胃酸は食べ物をどろどろに溶かすほど強い酸性です。実は、多少、食道の方へ逆流したとしても、健康であれば痛みは感じません。しかし、程度を超して、頻繁に、具体的には1日2時間半程度、食道が酸性になると、軽度の逆流性食道炎になります。食道はただれ、痛みを感じるようになるのです。ところが、胸やけの症状はあるのに、内視鏡で見てみると、食道の表面はきれいで、炎症やただれなどは見られない場合があります。それを『非びらん性胃食道逆流症』といいます」と三輪先生。
「びらん」とは、一般にいう、ただれのことです。週1~2回以上、胸やけや逆流感、すっぱいものがこみ上げる感じ(呑酸)を感じている人を対象に食道の粘膜を内視鏡で見たところ、6割以上の人に炎症やただれなどの異常が見られなかったそうです。
服薬をしながら、前かがみをやめ、食事は腹八分目
一見、「異常なし」のように見えるのに、不調を感じている非びらん性胃食道逆流症になる人の多くは、「若い」「女性」「やせている」という傾向があります。ストレスを感じやすい人がなりやすい可能性もあります。
通常、胃酸が多少逆流したとしても、多くの人はそれを感じません。しかしストレスが大きければ、食道も知覚過敏になり、胃酸の刺激を強く感じてしまうものです。
ちなみに、食道にただれのある逆流性食道炎になりやすい人は、中高年で太り気味の人に多い傾向があります。
治療としてはそれぞれ、胃酸の分泌を抑える薬などを使いながら、同時に、生活習慣を変えることで症状の緩和を図ります。胃食道逆流症の疑いがあれば、ストレスを和らげるようにする、食べ過ぎない、脂肪を多く摂らない、腹圧がかかるような前かがみの姿勢をとらない、食べたらすぐに横にならないようにするといった対策が考えられます。
胃食道逆流症はただちに命にかかわる病気ではありませんが、長い期間、食道が胃酸にさらされるようになれば重篤な病気になってしまうこともまれにあります。不安はストレスを増幅させます。胸やけによって集中力が出ない、人とのつきあいも遠慮がちになるなど、日常生活に支障が出る場合もあるでしょう。そんな時には、医療機関で受診しましょう。
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取材・文/三村路子