「食欲がない」「胃がもたれる」「胃がキリキリと痛む」......誰もが一度ならず経験があるのではないでしょうか。胃の調子は健康のバロメーター。不調であれば、「食べた物が悪かった?」「それともストレスが大き過ぎた?」と考え、食べる量を控えるなどして、胃の健康を保とうとします。なぜ、胃の調子は悪くなってしまうのでしょう。しょっちゅう起こる胃痛や胸やけから、胃食道逆流症、胃潰瘍や胃がんまで、兵庫医科大学病院副病院長の三輪洋人先生にお聞きしました。
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分泌された胃酸の中和は難しい
現代人は、胃酸を多く出していて、それには、食生活の変化が影響しています。それでは、食べる物によって胃を守ることもできるのでしょうか。例えば、牛乳を飲むことで、強烈な酸から胃の粘膜を守ることはできるのでしょうか。
「1970年頃まではそのように考えられていました。胃痛があり、胃酸が胃粘膜を傷めていると診断された場合、酸を中和する制酸剤という薬が使われていました。ところがほとんど効果がなくて、進行して胃に穴が開いてしまい、結局は手術するということが多くあったのです。
24時間pHメーターで胃の中の酸性度を24時間調べられるようになると、胃酸を中和するのは難しいことがわかりました。通常、胃の中の酸性度はpH1~2です。そこに制酸剤や牛乳が入ると、pH6~7くらいに変化しますが、5分程度で数値は下がってきます。数分しか効果がないのです」と三輪先生。
牛乳は酸と混ざればどろどろに固まってしまいます。食べ物を消化するためにどんどん分泌される胃酸を中和し続けるためには、大量の牛乳を飲み続けなければならず、胃酸を牛乳で中和し続けるのは現実的には無理でしょう。
胃酸の分泌を抑える薬の効果が向上
同様に、食べ物が酸性であることと、それが胃に入ったらどうなるかは別の問題で、理論的には大きな影響を与えることは考えづらいようです。例えば、オレンジジュースはpH3.5~4程度と食品としては酸性度が強いですが、飲んだからといって、通常pH1~2の胃の粘膜を傷めるとはいえません。
「1980年代には、胃酸が分泌されるメカニズムがわかりました。それからは、分泌されてしまった胃酸を抑制するのではなく、胃酸の分泌を抑制するという考え方が主流です。現在では、1980年代に出た薬の何十倍もの効果があるすばらしい薬が出ていて、症状の緩和に役立っています」(三輪先生)
『胃酸分泌抑制薬』は、プロトンポンプ阻害薬とH2ブロッカーがあります。
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取材・文/三村路子