日本と中国で意味が違うものも!「漢方」の基礎知識

多くの現代人を悩ませる「うつ病」。世代や性別を問わず、また本人の周囲にまで問題が広がっていく、つらい心の病です。うつ治療といえば精神科に通うというイメージがありますが、治療手段はそれだけではありません。精神疾患治療に長年携わってきた心療内科医による、「漢方によって心身のバランスを調えて、うつを治す方法」について、連載形式でお届けします。

※この記事は『うつ消し漢方ー自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』(森下克也/方丈社)からの抜粋です。

日本と中国で意味が違うものも!「漢方」の基礎知識 pixta_42791875_S.jpg前の記事「漢方薬は病状だけで購入NG!? 漢方の基本概念「五臓論」って?/うつ消し漢方(1)」はこちら。

虚実

虚実もまた、漢方治療において非常に重要な概念です。しかし、ひと口に虚実といっても、中国の漢方(中医学)と日本の漢方とではその意味するところが微妙に異なります。中医学では、虚とは、生命を維持するエネルギーであり、病気に打ち克(か)つ抵抗力であるところの正気(せいき)の不足した状態で、実とは、病邪の勢い(邪気)の盛んな状態をいいます。

いっぽう、日本の漢方では、体力や気力、病気に対する抵抗力の弱い状態が虚で、強い状態が実であるととらえます。中医学では、生体側の抵抗力と病邪の病勢が関係づけられているのに対して、日本の漢方では、あくまで生体側の抵抗力の強弱だけを見ています。

もともとの考え方は中国から発していますので、中医学の考え方がオリジナルといえますが、長い時を経て漢方が日本へと伝播(でんぱ)し、日本において独自に発展していくうちにしだいに変化していったと考えられています。どちらが正しいとか間違っているとかということではありません。

寒熱

寒熱は、病邪の性質を表す場合と、生体の防御機能の多寡(たか)を示す場合があります。たとえていうと、寒の病邪(寒邪)は冬の寒さや冷たい風であったり、熱の病邪(熱邪)は夏の炎天下であったりということです。

そういう病邪にさらされ、生体の機能の衰退により誘発された冷えや顔面蒼白(そうはく)が「寒証」で、機能の高まりすぎにより誘発された顔面の紅潮、熱感、目の充血などが「熱証」です。

一見、熱証のようでも身体の奥は冷えている真寒仮熱(しんかんかねつ)や、身体の奥に熱がこもっているために体表は冷えている外寒内熱(がいかんないねつ)など、病態は複雑です。

もちろん、病態に応じて、使われる漢方薬は違ってきます。

表裏

東洋医学では、病邪は進行とともに体表から身体の奥深くへ入っていくものと考えます。表裏とは、病邪が身体のどの部位にあるのかを示したものです。表は体表を、裏は五臓六腑を指します。

病初期、つまり太陽病期には、病邪は表にありますが、少陽病期に移行すると、表と裏の中間くらい(半表半裏)にきます。さらに病期が進行し、陽明病期に入ると、病邪は胸から胃に入ります。さらに進行すると、五臓六腑を侵していくことになります。

病邪がいまだ初期の表にあるときの身体の状態を「表証」といい、発熱、悪寒、それにともなう急性の頭痛、四肢の関節痛などの症状が現れます。

いっぽう、病邪が裏にいたったときの状態を「裏証」といい、侵される臓腑に特有の症状が出ます。肝であれば、持続性の頑固な頭痛、眼の疲労、月経不順など、心であれば、動悸、不眠、驚きやすいなど、脾であれば、下痢、食欲不振など、肺であれば咳、鼻水など、腎であれば、性欲減退、尿が出ないなどです。

気・血・水

東洋医学では、人は気(き)と血(けつ)と水(すい)のバランスの上に成り立っていると考えます。健康とは、これらが滞りなく循環し、それぞれがバランスよく身体の隅々にまで過不足なくめぐっている状態です。

いっぽう、病気とは、気・血・水の流れが滞ったり、身体の一カ所に集中したり、足りなかったり、流れが多すぎたり、少なすぎたりして、三者のバランスが崩れた状態です。気は、人間を生かしているエネルギーです。目には見えません。経絡(けいらく)に沿って身体の中をめぐっていき、身体の各所に活力を与えます。

気の病的な状態は、流れの滞りや不足、逆流です。たとえば、気が下半身から上半身に過剰に突き上げてくると、更年期の女性に見られるような「のぼせ」になります。また、下半身で不足すれば「冷え」となって現れます。現代医学に「気」に相当する概念はありませんが、うつ病は、この気が足りなかったり滞ったりしている状態と考えられます。

血は、気の力によって全身をめぐっている赤い液体です。栄養を司り、外的または内的な病因から身体を守る働きをしています。赤い液体といっても、現代医学でいう血液とイコールではありません。血液も含みますが、自律神経や内分泌ホルモン系も含む広い概念です。

血の病的な状態は二つです。全身または局所において不足した状態が血虚(けつきょ:貧血と同じ)で、スムーズに流れずに滞った状態が「瘀血(おけつ)」です。瘀血が頭部の筋肉に起これば筋緊張性頭痛に、肩から背中に起これば肩こりに、腰の筋肉に起これば腰痛に、目の下の皮膚に起こればクマに、女性の骨盤内に起これば月経不順や痔になります。

水は、血と同様に、気の力によって身体をめぐっています。赤くない液体の総称です。

現代医学的には、リンパ液、細胞外液、尿、浸出液などが相当するといわれています。水のめぐりの滞った病的な状態を「水滞(すいたい)」といいます。水滞によって起こる症状を「水毒(すいどく)」といい、代表的な症状に、吐き気、めまい、耳鳴り、立ちくらみ、むくみなどがあります。

 

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森下克也(もりした・かつや)

1952年、高知県生まれ。医学博士、もりしたククリニック院長。診療内科医として、日々全国から訪れる、うつや睡眠障害、不定愁訴の患者に対し、きめ細やかな治療で応じている。著書に『「月曜日の朝がつらい」と思ったら読む本』(中経出版)、『お酒や薬に頼らない「必ず眠れる」技術』(角川SSC新書)、『決定版「軽症うつ」を治す』(角川SSC新書)、『薬なし、自分で治すパニック障害』(角川SSC新書)、『うちの子が「親、起きられない」にはワケがある」(メディカルトリビューン)、『不調が消えるたったひとつの水飲み習慣』(宝島社)などがある。

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『うつ消し漢方ー自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』

(森下克也/方丈社)

30年以上にわたって漢方治療に携わってきた医師が、うつ病をいやしてくれる「漢方養生法」をまとめた話題の一冊。漢方治療や東洋医学の基本から、症状別事例、漢方の選び方、養生法までを分かりやすく解説しています。薬局・ネット通販で購入できる「漢方市販薬リスト」も付いています。

この記事は書籍『うつ消し漢方ー自然治癒力を高めれば、心と体は軽くなる!』からの抜粋です

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