成人の約5分の1が「不眠」と言われる現代。市場には「快眠」のための情報やグッズが溢れています。しかし実は睡眠に関しては多くの誤解や不正確な情報が氾濫しているのが現実です。精神神経学・睡眠学・時間生物学の第一人者が、中高年男女のための「快眠法」を伝授。本当にぐっすり眠りたい現代人のための「睡眠ガイド」です。
※この記事は書籍『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』(KADOKAWA)からの抜粋です。
前の記事「早起きも過ぎれば人生損をする! 適度な時間に就床・起床するために/眠りの新常識(10)」はこちら。
うつ病の前兆の疑いも...
よく眠れないせいで「疲れが取れない」「気持ちがすぐれない」「特にストレスになることがあったわけではないのに眠れない」......こんな日々が2週間以上も続くようであれば、うつ病を疑ってみる必要もあります。
【実例:ある男性の場合】
朝、寝床から出るのがつらい
公務員の男性です。2か月前から寝つくのに時間がかかったり、朝早く目が覚めたりするようになりました。そのような日には疲れが残っているようで、朝、目は覚めているのに寝床から出るのがつらく感じられます。
1か月ほど前、妻から「最近新聞を読まなくなったね」と言われました。実は、仕事への自信を失い、なんとなく元気も出ない一方で、あせりを感じていたりしていました。
夜はなるべく早寝を心がけるようになりました。しかし、寝つきがさらに悪くなってきました。また、朝方になると早くからうつらうつらしているだけで、まともに眠っていない状態になりました。
目は覚めているのに寝床から出るのがつらくて、起きても朝食を食べる気がせず、ソファに一度座ってしまうと、腰を上げるのもおっくうで、どこか身体の具合でも悪いのではないかと思うようになりました。
不安になって、内科医を受診しましたが、血液検査などでは異常はないと言われてしまいました。
不眠はうつ病のサイン
「調子が悪いのは眠れないことが原因だろう。きちんと眠れるようになれば、心身の不調は解決する」と思って診察にくる方がいます。しかし、よく話を伺うと、実はうつ病が原因だったというケースもあります。
うつ病では、気分がすぐれず、物事への関心がなくなり、楽しかったことに喜びを見いだせなくなります。こうした気持ちの面の症状だけでなく、ほとんどの人で不眠を伴うことがわかっています。つまり不眠は、うつ病のサインのひとつということです。
軽いうつ病では、不眠や全身倦怠感などの肉体的な症状を感じるだけで、憂うつな気分までは自覚できないことがあります。
うつ病が進んでいるために眠りの質が悪くなり、日中の調子も同時に悪くなっているのに、不眠が悪化したから気分が悪くなったのだと感じがちです。
不眠には入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒の三つのタイプがあり、うつ病では、そのいずれもが起こってくることがわかっています。
うつ病では寝つきもあまりよくありませんし、早く目覚めても、起きて活動できるわけではありません。そのまま寝床の中でぐずぐずしているうちに朝を迎えてしまいます。朝は調子が悪く、夕方になると少しずつ回復する日内変動を伴います。
うつ病ではこうした不眠とともに、さまざまな気持ちの変化が生じます。なんともいえない沈んだ気持ちや悲しいのとは少し違う重たい気持ちになったり、自分が情けなくて涙ぐんでしまったりすることもあります。また、気分転換ができずに物事を楽しめなくなりがちです。
もうひとつ特徴的なのが、うつ病では眠ることで気持ちの面の不調が回復し、気分が変わるということがなくなってしまう点です。そのため、不調感がだらだらと続いて苦しいのです。
一方で、大切な人を失ったときなどは、誰もが悲嘆にくれますが、しばらく時間が経つと、気分転換などで積極的に自分の気持ちをコントロールして、そこから目を背けることもできます。仕事に熱中しているときや何か好きなことをやっているときなどには悲しみを忘れることができ、悲嘆から離れることができるはずです。もちろん、失った大切な人のことを思い出すと悲しい気持ちになってしまいますが、一時的であれ気分転換できることは、うつ病との大きな違いです。
うつ病では「こうした気持ちになってしまうのは眠れなくなったから」と思いたくなるものです。そのため、不眠が改善すればすべてが治ると思い込んでしまい、その結果、うつ病に気づくのが遅れるケースがあるのです。
しかし、たとえ、眠りだけをよくしようとしても、憂うつな気持ちは改善されません。うつ病になると、睡眠の回復機能がうまくはたらかなくなることと、活力がなくなることが一緒に起こってくるからです。そうした場合、まず、うつ病の治療をすることが重要です。
不眠があって日中の調子の悪さがだらだらと続くときには、専門医を受診してよく話を聞いてもらい診断を受けることが大切です。