漢方では、患者さんが〝陰・陽"〝虚・実"のどの状態にあるかの〝証"を見極め、〝気・血・水"の異常がどのような組み合わせで起こっているかを考え合わせて、処方が決まります。だから漢方では、同じ症状、病名でも、患者さんの体質によって処方する薬が異なります。漢方について、旭川皮フ形成外科クリニック院長の水野寿子先生に聞きました。
Q1.漢方の診療の基本について教えてください。
漢方には、患者さんの体質や体力を総合的に測る物差しがあり、これを"証"といいます。体質や体力により、さまざまな証がありますが、中でもよく使われるのが「虚証と実証」です。その人が持っている病気に対する抵抗力のようなもので、体力があり生理機能が高い状態が"実証"。逆に"虚証"は、体力がなく生理機能が衰えた状態で、抵抗力もほとんどない状態です。そして、理想的なのはその中間で "中間証"といいます。一般に"実証"の人は、がっちりとした体格で血色が良く、スポーツ選手に多いといわれています。"虚証2の人は、線が細くて顔色も悪く、脈も弱々しい人です。
漢方では、"気"、"血"、"水"が体内を巡って、健康を維持していると考えます。これらに何らかの不具合が生じてくると、三者の均衡が崩れ、病気になります。
漢方薬では、同じ症状でも患者さんの体質によって処方する薬が違います。また、製薬会社によって同じ名前の薬でも含まれている成分が異なることがあります。受診した際にきちんと症状を伝えることが大切です。
Q2.気・血・水と各症状について教えてください。
【気】
もともとは、自然界における空気の移動(=風)のことです。これから転じて呼吸の意味になり、拡大解釈されて、生命活動や、精神活動を行うエネルギーまで表すようになりました。そして"気"は、"血"(血管を流れている成分)と"水"(汗やリンパ液といった血液以外の体液全般)といった体と心を結ぶ情報ネットワークの中枢でもあります。過労や寝不足、食事の不摂生など、ちょっとした生活の変化で、"気"は乱れてしまいます。人間関係や些細なことでも、"気"は乱れて体まで不調になってしまいます。
"気"の不足は、"気虚"。活力(体力・気力)が低下した状態で、"病は気から"の"気"はこれを指します。生命エネルギーが衰退して具体的には、元気が出ない、だるい、食事が面倒、やる気が起きない、貧血などが挙げられます。
"気"がのどのあたりで停滞していることを"気滞"といいます。抑うつ状態や、頭が重い、のどがつっかえる感じ、腹が膨れる、手足の痛みが挙げられます。
"気"が上がりすぎた状態を"上衡"といいます。症状としてはのぼせや動悸、情緒不安定のほか、発作性の冷えやゲップ、発汗などが挙げられます。
【血】
血液とその働きを意味します。"血"は"気"とともに全身を巡り、体の隅々まで栄養を運びます。なので、内分泌系や免疫系、婦人科系と関係が深く、"血"の異常は女性にとっては重要です。具体的には、"血虚"と"瘀血"の2種類があります。
"血虚"は、血の不足から来る機能障害です。全身の栄養状態が悪くなり、貧血になります。皮膚がかさかさする、爪がもろい、髪が抜けるといった症状のほか、よく眠れない、集中力が低下する、足がつる、血行不良などが挙げられます。
"瘀血"は、血の巡りが悪くなって滞ってしまった状態(末梢循環・静脈系の循環障害)です。
多くの症状が挙げられます。打撲・捻挫、皮下及び粘膜下の出血・紫斑、静脈瘤・静脈炎、血栓症、冷え症、肝機能障害・糖尿病などの代謝性疾患、頭痛やうつ、脳血管障害といった精神神経疾患、その他。特に女性特有の症状には、"瘀血"のかかわっているものが多くあります。漢方薬で体を整えることで、更年期障害などは緩和されやすくなります。
"血虚"の症例
□ 顔色が悪い
□ 貧血
□ 肌がかさかさする
□ 手足がしびれやすい
□ 抜け毛が多い
□ めまいがする
□ 目が疲れやすい
□ 不眠傾向にある
□ 爪が割れやすい
□ 集中力に欠ける
"瘀血"の症例
□ 目の下にクマがある
□ へその周りを押すと圧痛あり
□ 肌荒れ
□ さめ肌
□ 舌や歯茎の色が悪い
□ 内出血しやすい
□ 口が渇きやすい
□ 痔がある
□ よく下腹部が痛くなる
□ 感情の起伏が激しい
【水】
血以外の体液のことで、汗、唾、涙、尿、リンパ液、胃液などを指します。水の流れが滞った状態を"水毒"または"水滞"といい、代謝が悪くなるので、むくみやすく、異常にのどが渇く、水のような鼻水が出る、尿や汗の量の異常が見られます。手足の冷え、水太りなども挙げられます。ひどくなると頭痛やめまい、動悸なども起こります。
漢方薬には即効性はありません。中長期的にします。漢方薬に効果が期待されるのは、生体の状態を整えることです。従来のレーザーやIPL、ケミカルピーリング等の美容皮膚科領域の治療の下ごしらえ、もしくは併用療法として服用すると、より顕著な治療効果が期待できます。
次の記事「漢方の抗酸化力に注目!なんとなく調子が悪いと思ったら。試してみませんか?漢方薬(2)」はこちら。
水野寿子(みずの・ひさこ)先生
医学博士。旭川皮フ形成外科クリニック院長。旭川医科大学を卒業後、北里大学形成外科に入局し、外科や救急・麻酔科などを経験。美容クリニックでの勤務を経て、2003年、女性のさまざまな悩みをトータルに診療できる品川イーストワンスキンクリニックを開業。惜しまれつつ2015年3月、同クリニックを閉院。両親の介護のため北海道・旭川に拠点を移す。日本形成外科学会認定医。美容外科学会会員。美容外科医師会会員。美容医療協会会員。問:旭川皮フ形成外科クリニック 0166-74-8921 http://bihadahime.com