成人の約5分の1が「不眠」と言われる現代。市場には「快眠」のための情報やグッズが溢れています。しかし実は睡眠に関しては多くの誤解や不正確な情報が氾濫しているのが現実です。精神神経学・睡眠学・時間生物学の第一人者が、中高年男女のための「快眠法」を伝授。本当にぐっすり眠りたい現代人のための「睡眠ガイド」です。
※この記事は書籍『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』(KADOKAWA)からの抜粋です。
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【60歳男性の場合】
長く眠ろうとしたら、眠りの質が低下した
60歳の男性です。定年退職後、健康のためにゆっくり眠ろうと決意し、それまで午後12時頃に就寝し、翌朝7時に起床していたのを、夕食を早く済ませて眠る準備をし、10時前には寝床につくようにしました。
しかし、とくにこれといった心配ごとがあるわけではないのに、夜中に何度も目が覚めるようになりました。長時間、寝床で横になっているのにもかかわらず、熟睡感がなく、朝の目覚めも悪くなりました。
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必要以上の眠りは身体に毒?
世界中の健康な人の夜間睡眠時間を脳波を用いて調べた研究では、12歳で9時間、15歳では8時間になり、25歳では7時間、45歳では6.5時間、さらに65歳では6時間というふうに、年をとるにつれて減っていくことがわかっています。また、こうした睡眠時間は国や人種で差がないことがわかっています。60代で健康な人なら、適正な夜間の睡眠時間は6時間から6.5時間と思ってよいでしょう。
男性、女性を問わず、シニアの方から「定年退職をしたあと、時間が自由になり、それまでより少し早寝になり、遅くまで寝ているようになった」というのは、よく聞く話でけっして珍しいものではありません。ただし「夜10時に寝て、朝7時に起きる」というのは、それほど極端な睡眠のスタイルではないようにも思えますが、9時間も寝床の中で過ごしていることになるのです。
健康なシニアであれば毎晩9時間も熟睡できるものではありません。必要以上に長く眠ろうとすると眠りは浅くなります。何度も目が覚めるようになります。そして熟睡感は減少します。さらに朝の目覚め感も不良で、長く横になっているのに疲れが取れていない感じがしてきます。当然、日中、身体の不調を感じるようになってくるでしょう。そして、ますます寝床の中で過ごしたくなってしまうのです。この悪循環は生活スタイルに基づく不眠として、シニアに高い頻度でみられるものです。
こうした場合の最も強力な改善法は、遅寝早起き生活にしていくことです。就床してから起床するまでの時間を適正な睡眠時間に合わせ、6.5時間くらいにして、1~2週間続けることです。こうすると夜中に目覚めることが減り、だんだん熟睡感も出てきます。朝は目覚まし時計をかけてきちんと起きてください。もう少し眠っていたいというくらいがよいと思います。
「睡眠不足になるのでは」と心配する方もいるかもしれませんが、6時間台、7時間台の睡眠時間の人が病気になりにくく長生きだということがわかっています。必要以上に眠ろうとして、たとえば「毎晩8時間眠ろう」と思ったりすると、もちろんシニア世代ではそんなに眠れませんし、却ってバランスをくずして不眠になってしまうのです。
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