早起きも、過ぎれば人生損をする! 早く目覚めてしまう人にはサングラスが有効/眠りの新常識

成人の約5分の1が「不眠」と言われる現代。市場には「快眠」のための情報やグッズが溢れています。しかし実は睡眠に関しては多くの誤解や不正確な情報が氾濫しているのが現実です。精神神経学・睡眠学・時間生物学の第一人者が、中高年男女のための「快眠法」を伝授。本当にぐっすり眠りたい現代人のための「睡眠ガイド」です。

※この記事は書籍『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』(KADOKAWA)からの抜粋です。

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【実例:50代男性のケース】
極端な早寝早起きになってしまった

56歳の男性です。若い頃から生活は規則正しく、40代後半からは夜11時には就寝し、朝5時30分には起床していました。50歳を過ぎた頃から、夜眠くなるのが早くなってきました。とくにプロ野球が開幕し、ナイターの中継が始まる春から、日本シリーズが終わる秋にかけては極端な早寝早起きになりました。夜8時には眠くなり、好きなナイター中継を試合終了までみていられません。

その一方で朝は3時には目が覚めるようになりました。目覚めは良いのですが、朝早くから庭に出て植物の手入れなどをするので、家族からはうるさがられるようになりました。

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シニア男性の極端な朝型化・
睡眠相前進型概日リズム睡眠覚醒障害

話をよく聞いてみると、早朝はだいたい6時には寝床から出て、植木の世話を始めていたとのことでした。会社まではマイカーで通勤し、会社に着いてからは屋上や窓際に置かれた植木類の手入れを欠かさなかったそうです。つまりこの方は、日の長い時期は朝8時の始業時刻以前に2~3時間ほど太陽光を浴びていることがわかりました。秋から冬にかけても同様の生活をしていますが、日の出が遅いのと、日差しが弱いため、この時期には寝つきが早くなりすぎることはなかったようです。

私のところに相談にみえたのですが、こころの面での不調はなく、体内時計が早く進みすぎてしまう睡眠相前進型概日リズム睡眠覚醒障害(以下、睡眠相前進型とする)だと診断しました。

冬の生活スケジュールと同じ光環境を保つため、春から夏までは起床してから朝8時までサングラスを使用するように伝えました。その結果、しだいに夜遅くまで起きていられるようになり、およそ1か月後には夜11時まで起きていられるようになったのです。ナイター中継を終わりまでみて、朝は5時過ぎまで睡眠がとれるようになりました。夕食後の団らんも眠くならずに楽しめるようになったとのことです。

 

社会的には問題ないが人生を少し損することになる!?

睡眠相前進型とは、社会的に望ましい時刻よりも夜早く眠ってしまい、望ましい時刻よりも朝早く目覚める極端な朝型の人たちのことをいいます。若い人にみられることは稀ですが、年をとってくると朝型化する人が特に男性で多くなり、なかには極端な朝型で困る人が出てくるのです。

ほとんどの場合、夜の6時から8時頃までには眠くなり、夜8時以降まで起きていることができません。逆に朝は2時か3時と、まだ暗いうちに目が覚めてしまいます。

目が覚めたときには比較的しゃっきりと行動ができることから、夜になって早くから眠たくなってしまうまでは、何も問題は起こりません。その点がうつ病で起こる早朝覚醒とは異なるものです。うつ病でも早朝覚醒が起こることがありますが、この場合は身体のだるさや気持ちのつらさもあって、寝床から出ることができず、朝まで悶々として過ごすことになりがちです。

これに対して睡眠相前進型の場合は比較的さわやかに目覚めるために、また憂うつな気分も見られないことから、起きて行動することが多くなります。ただし夜は早い時刻から眠気があらわれるので、とくに夜の余暇時間や楽しみを確保するうえで問題が起こるようになります。

若い人にみられる極端な夜型で、朝起きることができない睡眠相後退型の人にくらべ、社会的に問題になることは多くありません。
とはいえ、自分の好きなこと、たとえば趣味のために夜の時間を使うことができませんから、ちょっと損している人ともいえそうです。

 

なぜ睡眠相前進型になるのか

睡眠相前進型の原因のひとつとして、年をとると体内時計のリズムが早くなり前へ進みやすくなることがあげられます。前へ進むというのは早朝に目が覚めることになるという意味です。

若い人では朝起きてから体内時計のはたらきで眠る準備がおこなわれ、実際に眠くなるまでの時間は14~16時間ほどですが、シニアは12~13時間程度となってきます。このため、夜遅くまで起きているのがつらくなるのです。

自身の退職や子どもの自立などで自由な時間が増え、早く寝床につくようになりがちなことや身体が欲する睡眠時間が短くなることも影響しているでしょう。

早朝に目覚めると、庭に出て植物の世話をするなど朝早くから太陽光を浴びる人がいます。昼夜のメリハリがつけられるので身体にとってはよいことですが、これが体内時計のリズムを、よりいっそう早める原因にもなるのです。
「極端な朝型に生活を変えたら仕事や学業で成功した」という自己啓発本や体験記も世に多くありますが、極端な朝型は体質的なものや加齢による結果ですから、まねをしたところで誰もが成功するとはかぎりません。

また極端な朝型の人では、家族にそういう人が多いことが知られています。

 

寝つく時刻を遅くする方法

睡眠相前進型は体内時計リズムの変調によるもので、概日リズム睡眠覚醒障害のひとつです。睡眠薬を投与して治るというものではありません。

朝の光が強いと、あるいは朝の光を早く浴びると、寝つく時刻は早まってきます。朝の日差しが強い春から夏にかけては早寝早起きがさらにひどくなるわけです。一方、夕方から夜にかけて強い光を浴びると、体内時計はまだ昼が続いていると判断し、寝つきを遅らせます。この原則を利用して人工的な高照度(2500~3000ルクス:ナイターをやっている球場と同じレベルの明るさ)の光を夕方、日が沈んでから浴びる方法や、サングラスをかけて朝浴びる光の量を意図的に制限すると、寝つきの時刻を遅らせることができます。

サングラスをかける方法は誰もが比較的簡単にできます。朝の庭仕事のときや通勤時にサングラスをかけて目に入る光の量を減らすことで、夜、眠くなる時刻が極端に早くなるのを防ぐことができるわけです。

 

次の記事「その不眠、実はうつ病の前兆かも。日中の調子の悪さがだらだら続く不眠は専門医を受診して/眠りの新常識(11)」はこちら。

 

 

内山 真(うちやま まこと)

1980年、東北大学医学部卒業、東京医科歯科大学精神神経科研修医。91年、現・国立精神・神経医療研究センター室長、 92~93年、ドイツ・ヘファタ神経学病院の睡眠障害研究施設に留学、同センタ一部長を経て、2006年より日本大学医学部精神医学系主任教授。著書に、「睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識」(KADOKAWA)、「名医が教える不眠症に打ち克つ本」(アーク出版)、「睡眠のはなし」(中公新書)、「睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版」(じほう)、『別冊NHK きょうの健康 睡眠の病気」」(NHK出版)など多数。NHK 「きょうの健康」 をはじめ、メディアヘの出演も多い。日本睡眠学会理事長、日本臨床神経生理学会理事、日本時間生物学会理事、日本女性心身医学会監事、日本精神神経学会代議員など。


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『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』

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この記事は『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』からの抜粋です
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