ちょっと立ち止まって考えるだけで適切な行動、生き方につながる。普段から意識できる「2つの心構え」

音楽を聞くと心がホッとしたり、やさしい気持ちになったりしませんか? 脳科学者の中野信子先生は「音楽には、心を和らげる効果を持つことが科学的に説明できます」と話します。その中野さんが「ファン」だと公言する発達障害の天才ピアニスト・野田あすかさんと一緒に取り組んだ共著『脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く 心がホッとするCDブック』(中野信子&野田あすか/アスコム)より、「ピアノが野田さんの生き方にもたらした効果」などを脳科学視点でくわしく解説します。

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なぜマインドフルネスが、よりよい生き方につながるのか?

マインドフルネスによって、私たちのふるまいや生き方は、どう変わってくるのでしょう。

その時どきの自分の心や気持ちのありようを知ることが、なぜ、よりよく生きることにつながるのでしょうか。

第一に、自分の心や気持ちに気づこうとすると、自然にある程度の時間が経過しますから、「ひと呼吸おくこと」になります。

何かあった時、よく考えず瞬間的、反射的に行動してしまうことを防ぎ、落ち着いて戦略を考え、より適切な行動をとることができます。

脳には2つの意思決定システムがあります。

速いけれど乱暴なXシステムと、遅いけれど正確でていねいなCシステムです。

このうち、マインドフルネスはCシステムをきたえることにむいているのです。

Cシステムを動かしているのは、前頭前皮質といって人間らしい生き方の源になるような場所です。

自分が難問を抱えている時、「自分はとても困り、苦しんでいる」ことがわかり、さらに「とても寂しく孤独だ」と気づくかもしれません。

「寂しい。──そうか、あの人の助けを借りよう」と思うかもしれません。

あるいは「上司にあれを命じられた時と同じだ」と気づくかもしれません。

その時、困難を回避した、または困難に立ち向かったやり方を思い出し、ゆっくり落ち着いてメリットとデメリットを計算して、適切な決断ができるかもしれません。

いずれにしても、知的なふるまいをできる自分になるための大きな手がかりを、マインドフルネスは与えてくれるのです。

第二に、自分の心や気持ちに気づくことで、人間の脳の働きそのものを深めたり、広げたりすることができます。

いま進行中の自分の思考や行動そのものを対象化し、客観的にとらえて認識することを「メタ認知」といいます。

ライオンを見て「強そうで立派な雄ライオンだ」と思うのは、ただの「認知」。

これに対して、ライオンを見て「強そうで立派な雄ライオンだ。自分がそう思うのは、ああなりたいと憧れているからだ」と思うのが、「メタ認知」です。

マインドフルネスの「気づき」そのものが、このメタ認知といえます。

これも先ほどもご紹介した「前頭前皮質」と呼ばれる脳の部分の機能です。

メタ認知を繰り返してきたえるのは、前頭前皮質の機能をきたえること。

それは人間の知能を伸ばすこととイコールです。

マインドフルネスで、どんないいことがあるの

①適切な行動をとることができる

トラブルなど出来事の渦中では、反射的に反応してしまいます。

自分を見つめ、気持ちに気づく訓練ができていれば、渦中にあっても大丈夫。

マインドフルネスは、この力を伸ばします。

②脳の「前頭前皮質」をきたえ、知能を伸ばすことにつながる

脳の大きさは、ざっと500万年という人の進化で約3倍になったのに対して、認知行動・人格の発現・社会的行動の調節などに関わる前頭前皮質は、約6倍の大きさになったとされています。

つまり、前頭前皮質は人間らしい行動の多くを一手に担っている部分といえます。

自分で自分を育てることができるのは人間だけ。

それを担うのが脳の前頭前皮質。

前頭前皮質は、以前は25歳くらいまで育つといわれていたのが、最近、研究者たちの見解が変わってきて30歳ごろまでとされ、この先新たな研究上の発見により、もっと延びる可能性もあります。

自分に否定的な人は、もっと自己肯定感を高めることが大切なのです

「ああ、また失敗しちゃった。何をやっても自分はダメ。もうサイテーッ」

「こんな大問題、自分に解決できるわけがない。無理に決まっている」

そんなことを口癖のように言い、自分で自分のことを否定してしまう人が、最近とても多い、と私は感じています。

「自己肯定感」の低い人が多いのです。

女性でよく聞くのは、パートナーに「なんか最近、帰りが遅いじゃないの」といった嫌みを、何につけても口にしてしまう人。

自分は大事にされない存在なんだ、パートナーから愛されていないに違いない、といつも思っているからこそ、よからぬ妄想をして、攻撃的な言動に出てしまう......。

でも、いくらパートナーに食ってかかっても、問題は解決することはなく、むしろ状況を悪化させてしまうかもしれない。

もちろん、パートナーからの愛情を求めるのは当然のことでしょう。

でも、自分で、自分のことを認めて肯定し、自分を愛さない限り、同じことが将来ずっと続いてしまいます。

ところが、自己肯定感の高い女性は、パートナーから愛情を注がれればもちろんうれしいですが、一方で、パートナーが外で何をしようが、それはパートナーの問題と割り切り、「まあ、そんなこともあるかもね」と思う余裕を持つことができるのです。

単なる自分への視線の違い、と思われるかもしれませんが、両者の違いは、実は家庭生活の大きな違いとして現れてきます。

仕事でも同じことがいえます。

あなたは、上司や同僚に漠然とした不満を持ち、攻撃的な言動に出てしまったり、悪口を言い募ったりしてしまっていませんか。

それは、自分が大事にされていないと感じるあまり、上司や同僚から評価されることを必要以上に期待し、求めてしまっているからではありませんか。

マインドフルネスで自分の心に気づき、ありのままの自分を受け入れることは、究極的には、自分自身への慈愛のまなざしを持つ、ということです。

自分に否定的な人が少なくないいま、マインドフルネスの考え方を時代が求めていると言っても過言ではありません。

【まとめ読み】『脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く 心がホッとするCDブック』記事リストはこちら!

ちょっと立ち止まって考えるだけで適切な行動、生き方につながる。普段から意識できる「2つの心構え」 脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く心がホッとするCDブック脳科学者が発達障害を持つピアニストの「音楽と心の関係」を全3章にわたって徹底解明。全10曲が入ったCD付きです。

 

中野信子(なかの・のぶこ)
医学博士/脳科学者/認知科学者。フランス国立研究所「ニューロスピン」に博士研究員として勤務。帰国後は脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象および人物を読み解く語り口に定評があり、テレビのコメンテーターとしても活躍中。『脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』など著書多数。

野田あすか(のだ・あすか)
ピアニスト。発達障害や解離性障害が原因で、いじめ、転校、退学、自傷、パニック、右下肢不自由、左耳感音難聴などで入退院を繰り返してきた。たくさんの苦しみを抱え、自分の障害と向き合ってきたことで、同ピアニストが奏でる「やさしいピアノ」は多くの人の感動をよんでいる。2016年プロのピアニストとしてデビュー。全国でリサイタルを行う。

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脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く

心がホッとするCDブック

(中野信子&野田あすか/アスコム)

話題の発達障害を持つピアニストと脳科学者が「しなやかな脳と心を育てる」ことを目的に作ったCDブック。音楽と心の関係を、「天才ピアニストが音楽とともにたくさん乗り越えて歩んできた人生」と照らし合わせながら脳科学者がくわしく解説しています。ホッとしたい。やさしい気持ちになりたい。収録された10曲入りのCDを聞くだけで、ストレスの多い現代人たちに心の癒しをもたらす一冊です。

【コンサート情報】

▼9月19日(土)~22日(火)オンラインコンサート開催

※9月20日(日)~22日(火)アーカイブ視聴可能

■『発達障害を持つ天才・ピアニスト野田あすか』の紹介動画もチェック!

※この記事は『脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く 心がホッとするCDブック』(中野信子&野田あすか/アスコム)からの抜粋です。
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