音楽を聞くと心がホッとしたり、やさしい気持ちになったりしませんか? 脳科学者の中野信子先生は「音楽には、心を和らげる効果を持つことが科学的に説明できます」と話します。その中野さんが「ファン」だと公言する発達障害の天才ピアニスト・野田あすかさんと一緒に取り組んだ共著『脳科学者が選んだやさしい気持ちになりたいときに聞く 心がホッとするCDブック』(中野信子&野田あすか/アスコム)より、「ピアノが野田さんの生き方にもたらした効果」などを脳科学視点でくわしく解説します。
あすかさんのピアノに浸って、自分の心を見つめてほしい
野田あすかさんのピアノでマインドフルネスの世界への扉を開き、「マインドフルネス」の考え方や体験を、自分のものにするやり方の参考になりそうなことを書いておきます。
もちろん、どんなふうに聞いてもよいのです。
私がこれから書くことは、あくまでもやり方の一つで、あすかさんのピアノを楽しむ方法は無限にあります。
さて、あすかさんのピアノは彼女の「こころの音」。
「本当の自分」を気づかせ、自分を大切にする生き方を教えてくれる音楽だ、と繰り返しお話ししてきました。
たとえば「悲しい時、3番目の曲を聞けば、心が晴れる」などといった直接的な効果を謳うつもりはありません。
そもそも曲の感じ方や、曲によって触発される心の動きは、その人の資質や主観や体験によって大きく違います。
万人に共通の「必ず悲しみを取り除く音楽」などと謳うことは、少なくとも現在の研究結果からはナンセンスです。
しかも、悲しい気分の時、明るい気分の曲を聞けば気が晴れるかというと、そうでもありません。
悲しい時、元気な曲を聞くと、たいていもっと悲しくなってしまうことがわかっています。
悲しい気分の時は、悲しい曲を聞いて思いっきり泣いたほうが、悲しい気分から早く立ち直ることができるかもしれないのです。
「泣く」ことは、自分が不安だという感情を認めて「受容」する行為。
つまり「ありのままの気づき」を受け入れることですから、それによって不安な感情は解消され、ストレスは消えていきます。
できれば、あすかさんのピアノは、やさしい気持ち、楽しい気持ち、穏やかな気持ち、苦しい気持ち、寂しい気持ち、泣きたい気持ち、怒りの気持ちなど、いま、ここにいる自分のさまざまな気持ちに「気づく」ために、聞いてみてください。
その時、気づく気持ちがあると思います。
それを、無理に解消しようとはしないでください。
「私はいま、この曲を聞いて、こんなふうに感じているな」という視点を自分のなかに育てていくことが大切なことなのです。
最初に音楽を聞く時は、余計なことは何も考えず、ただ自分の心をじっと見つめる、あるいは自分の気持ちと静かに向きあう気持ちで、あすかさんのピアノに浸り、あすかさんの心の音を感じることをおすすめします。
気が向けば、なつかしい写真を眺めながら聞く、あるいはCDプレーヤーを外に持ち出して散歩しながら聞くというのも、おもしろいかもしれません。
料理をしながら聞く、たとえば編み物のような趣味のBGMとして聞く、お風呂やトイレで聞くなど、いろいろと試してみてください。
あすかさんは、収録曲10曲の楽譜に、それぞれの曲をつくった時の気持ちや狙いを記しています。
それを読んで、あすかさんの気持ちを想像しながら聞く時間も、ぜひつくってほしいと思います。
また新たな気づきが生まれるかもしれません。
「気づき」に自分をうまく乗せて生きるあすかさんのピアノを聞いて、自分の心や気持ちについて「気づき」があったら、それを大切に、ありのままに受け入れてください。
たとえば、あすかさんのピアノで、自分が子どものころに受けた「心の傷」を思い出すかもしれません。
自分に足りなかったもの、親や家族から自分がしてほしかったことなどが、頭に浮かぶかもしれません。
子ども時代や思春期に、まったく問題なく恵まれて育った人など、ほとんどいないでしょう。
親との軋轢(あつれき)、きょうだいとの対立、日々や社会への不満......。
さまざまな思いが心を満たすでしょう。
あすかさんの曲を聞いて、大人になったあなたが、自分の足りなかった点を再び育て直すきっかけにできれば、すばらしいと思います。
親に、もっとやさしくしてほしかった、と気づいたあなた。
あなたは、受け取るやさしさが少なかった。
ならば、大人になったあなたが、自分にやさしくしてください。
自分にやさしくすることで、あなたの心ばかりでなく、生き方そのものが満たされていくようになるでしょう。
これが「気づきに自分をうまく乗せて生きる」ことです。
その結果、心の重荷が軽くなり、心をよりよく導いていくことができます。
こうして、やさしい気持ちが育ち、心がホッとしていきます。
あすかさんのピアノを聞くうち、お気に入りの曲が見つかって、それだけを繰り返して聞くことになるかもしれません。
これは、あなたが、その曲を聞いた感じを何度も繰り返し味わいたいのです。
たとえば25歳の時と30歳になった時で、お気に入りが変わるかもしれません。
その時、また自分を見つめ直せば、新たな気づきが生まれます。
【野田あすか】
広汎性発達障害、解離性障害が原因で、いじめ、転校、退学、そして自傷、パニック、右下肢不自由、左耳感音難聴などで入退院を繰り返してきたピアニスト。たくさんの試練をのりこえてきたことで、あすかの奏でる「やさしいピアノ」は多くの人の感動をよんでいる。
▼コンサート情報
※9月20日(日)~22日(火)はアーカイブ視聴可能
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脳科学者が発達障害を持つピアニストの「音楽と心の関係」を全3章にわたって徹底解明。全10曲が入ったCD付きです。