「咳が1週間くらい長引いても自然に治るのを待つ」というあなた。放置していると全身に悪影響を及ぼすかもしれません。毎月2000人以上の患者を治療してきた呼吸器の名医・杉原徳彦先生は、実は悪さをしているのは「のどではなく鼻の奥」と言います。そこで、杉原先生の新刊『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)から、「長引く咳」の正体から治療法までを連載形式でお届けします。
気道を守る「マスク」の選び方・使い方
咳を起こしにくくするうえでも、鼻の不調をやわらげるうえでも重要なのが、鼻やのど、気管支など、空気の通り道である「気道」を乾燥させないことです。
気道に限らず、粘膜にとって乾燥は大敵です。粘膜が乾燥したり、冷えたりすると、表面にある線毛の働きがガクンと鈍ってしまい、ウイルスや細菌などが粘膜に付着したり、体内に侵入したりすることを許してしまいます。
気道の粘膜はバリア機能をもっており、さまざまな病気の感染予防に役立っているのです。
そこで、意識したいのが、気道の粘膜の「加湿・加温」です。とくに乾燥と冷えが厳しくなる冬は、「加湿・加温」を積極的に行うことが、気道、さらには全身の健康維持には欠かせません。
その方法はとてもシンプルで、こまめな「水分補給」と「マスクの着用」です。
冬場はこの2つを心がけるだけで、かなり粘膜を加湿・加温することができます。
そして、「加湿・加温」をとくに意識しなければいけないのは、寝ているときです。
マスクは、冬場、寝ているときも着けましょう。
というのも、起きている間ならば、意識して水分や温かいものを口にすることができますが、寝ている間は何もできません。しかも、鼻の調子があまりよくないと、口呼吸になりがちで、いっそう口腔やのどの粘膜が乾燥しやすくなります。
マスクを着けるときは、鼻までしっかりおおうのがベストです。
ちなみに、おすすめは、昔ながらの綿100%の「ガーゼのマスク」です。いま主流になっている不織布のマスクよりも、ガーゼのマスクのほうが、保湿性や保温性の点で断然優れているからです(ただし、一晩使ったカーゼのマスクには、いろいろな雑菌が付着しています。1回使ったら洗うことを心がけましょう)。
顔にゴムがあたるのがイヤな方は、ポリウレタン製のマスクもおすすめです。こちらもくり返し洗って使えるので、衛生的にも問題ありません。
もちろん、ウイルスや花粉、ハウスダストなどをシャットダウンするには、そのためのフィルターが中に入っている不織布のマスクのほうがいいでしょう。
なので、日中、外出する際にはそちらを使い、口腔や鼻腔の加湿・加温が最大の目的である睡眠中はガーゼやポリウレタンのマスクを用いる、という具合に使い分けるとよいと思います。
部屋の湿度をたもつ、ちょっとした工夫
睡眠中の対策としては、乾燥する冬場は、寝室の加湿も習慣にするといいでしょう。
簡単なのは、大きめのバスタオルを1~2枚水で濡らし、水滴が落ちない程度に絞って、睡眠中の寝室(できれば枕元)に干す方法です(これは、8畳くらいの広さの部屋の場合です)。タオルに含まれていた水分が空気中に放出され、それが湿度になるわけです。これだけで、だいぶ部屋が加湿されます。
なお、その部屋の広さやそのときの温度などによって、干すタオルの枚数は変わってきます。実際にやってみて、朝、起きたときのご自分の口の中やのど、鼻の中、さらには肌などの乾燥具合をチェックしながら、ほどよく加湿できる枚数を見つけてください。
また、人間にとっての適度な湿度は、50~60 %といわれていますので、湿度計を用いて、その湿度になるように濡れタオルの枚数を調整してもよいでしょう。
また、お子さんの部屋の中に水槽を置いて咳の症状が改善したケースもあるので、ためしてみてもよいでしょう。
効果的な加湿器の選び方
ただ、すでに長引く咳や鼻の不調等に悩まされているのならば、睡眠中に「加湿器」を用いることも考えたほうがいいかもしれません。濡れタオルよりも確実に、かつしっかりと寝室を加湿していくことができます。
最近は加湿器の種類もさまざまで、大きく分けると(1)スチーム式、(2)気化式、(3)超音波式、(4)ハイブリッド型(スチーム式+ 気化式)、(5)ハイブリッド型(スチーム式+ 超音波式)の5種類があります。
〔加湿器の種類〕
(1)スチーム式:ヒーターで水を煮沸させ、その蒸気で加湿する
(2)気化式:湿らせたフィルターに風を当てて気化させ、それで加湿する
(3)超音波式:タンク内の水を微振動させてミスト状にし、加湿する
(4)ハイブリッド型 (スチーム式+気化式):ヒーターで温めた風を、湿らせたフィルターに当てて加湿する
(5)ハイブリッド型 (スチーム式+超音波式):ヒーターで温めた水を微振動させてミスト状にし、加湿する
どれも一長一短がありますが、雑菌の発生のしにくさや、小さいお子さんのいるご家庭での安全面からいえば、おすすめは(4)と(5)のハイブリッド型です。
一方、(1)のスチーム式の場合、水を煮沸させるので吹出口が熱くなり、誤って小さなお子さんが触ってしまえば、火傷につながります。
また、(2)の気化式や(3)の超音波式は、煮沸しない水で加湿するため、手入れを怠るとカビが発生しやすくなります。これでは、加湿すればするほど、咳や鼻などの症状が悪化しかねません。
また、睡眠中、加湿器をずっと稼働させる場合、使用する部屋のサイズに合ったものを選ぶと、途中で加湿がストップする可能性があります。
なので、使用する部屋より広い部屋用のものを選ぶといいでしょう。
日当たりのある家であれば、冬場はそれほどカビの心配する必要はありません。
なお、湿度を高くしすぎるのも、じつは鼻にはよくありません。湿気が強くなると、鼻に不調をもっている人の場合、鼻づまりが起こりやすくなるからです。
水には、粘膜を膨張させる作用があり、湿気の強い空気を鼻に吸い込むと、浸透圧により鼻腔内の粘膜が膨張します。その結果、空気の通り道が狭くなってしまい、鼻づまりを感じやすくなるのです。
そして、鼻に不調をもっている人ほど、水分による粘膜膨張の影響は受けやすいようです。患者さんなどからも、東南アジアなど蒸し暑い地域に行った際に、現地の空港の外に出た瞬間、鼻の詰まりを感じたという話をしばしば聞きます。
湿度計を用いて、室内の湿度は50~60%くらいに維持しましょう。
また、いまの時代、ほぼ1年中を通して、私たちは乾燥の元凶である「エアコン」と、日々、接さざるを得ません。エアコンは冷房でも暖房でも、空気を乾燥させます。
対策としては、こまめに水分を補うことやマスクを着けること以外に、顔にエアコンの風が当たらないようにすることも重要です。
とくに乾燥の厳しい冬は、夏以上にエアコンによる乾燥の度合いが高くなります。そのため、こうした乾燥対策を、夏以上に意識する必要があります。
そのため、冬はエアコン使用はやめ、代わりにオイルヒーターなど、空気を乾燥させにくい暖房器具を使うのも、冬の1つの乾燥対策です。
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4章にわたり、長引く咳の原因と対策を網羅。咳対策用の枕、マスク、お茶の選び方などセルフケアの実践方法も紹介されています