高齢者の死亡原因の一つ、誤嚥性肺炎を防ぐためには歯のケアが大切【総合診療科の医師が解説】

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『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』 (舛森 悠(Dr.マンデリン)/KADOKAWA)第5回【全7回】

北海道で総合診療科の医師として働く舛森 悠氏。総合診療科とは、特定の疾患や臓器、年代に限定せず、あらゆる患者さんに対し診療を行う科のことで、舛森医師はそこで1万人以上の高齢患者さんを診察してきました。 その著書『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』(KADOKAWA)には、たくさんの患者さんたちのおかげでわかった、気づいた、何歳になっても健康に幸せに生きられる知恵がまとめられています。 「無理に7時間も寝なくていい」「運動よりも仲間とおしゃべり」など、目からウロコの情報の数々のなかから、今日から実践できる健康習慣をご紹介します。

※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。

歯を守る習慣は、誤嚥性肺炎も命にかかわる病気も遠ざけます

あなたは歯を大切にしていますか?

毎日の回診で入院患者さんを診ていると、歯や口内環境が原因で治療がなかなか進まないことがとてもよくあります。

最も多いのが、歯周病などで歯が抜け落ちてしまっているためにうまく噛むことができず、食事が思うように食べられないパターンです。「入れ歯があれば大丈夫じゃない?」と思うかもしれませんが、入れ歯は体重が落ちてくるとどんどんサイズが合わなくなってきます。そうなると、うまく噛めなくなったり口に当たって痛いため、食事量が落ちていきます。

その結果、さらに痩せてしまって、余計に入れ歯が合わなくなるという悪循環となってしまうのです。

歯を健康に保つだけでなく、人生の最期まで自分の歯でおいしいものを食べるためにも、歯磨きはとても重要です。入院中の患者さんでも、体調が悪いためにうまく歯を磨けなくなって、歯周病がさらに悪化したなんてこともあります。

悪化する前の予防が非常に大事なのです。

口の中をきれいに保つのは、高齢者の死亡の原因で多い「誤嚥性肺炎」の予防にもなります。誤嚥性肺炎とは、食べ物が誤って空気の通り道である気管に入ってしまい、その中に含まれる細菌が肺に感染する症状です。口の中にはおよそ600種もの細菌が存在しているのですが、口内が汚いと、さらに多くの種類の細菌が発育して、誤嚥性肺炎を起こしやすくなると考えられているのです。

介護が必要な状態で入院している366人を、日常的な口腔ケアのほかに、歯科衛生士による週1回の専門的な口腔ケアを行う群と行わない群に分けて、2年間追跡した研究があります。(※1)

結果は、専門的なケアを行った群では、熱が出たり肺炎を発症する人の数が40%も低下していました。

僕が働いている病院では、口腔ケアの重要性に着目しており、歯科衛生士が常勤して、口腔ケアや入れ歯のチェックなどを行っています。このような取り組みはまだ珍しいのですが、少しずつ広がっており、全国の病院でも取り入れるところが増えつつあります。

「私はまだ誤嚥なんてする年齢じゃないし、ちゃんと歯を磨いているから大丈夫」と思う人もいるかもしれません。しかし、気づかないうちに歯に汚れがたまって、症状はなくても歯周病に陥っていることもあります。 

歯周病菌が血液や呼吸器に入り込むと、糖尿病、心筋梗塞、動脈硬化症、肺炎、早産などさまざまな病気を引き起こすことが最近わかってきました。(※2)歯周病による慢性的な炎症が原因で糖尿病が悪化することがある、ということは医療業界ではとても有名な話です。日頃から歯を清潔に保っておくのは、死を招く病気を予防することになります。

歯周病を予防するために世界的に推奨されているのが、毎日の歯磨きと歯間ブラシの使用。(※3)そして、歯科の定期受診です。歯科では、歯ブラシで取り除けなかった歯垢やバイオフィルム、もっと硬くなった歯石を取り除いてくれます。

この原稿を書きながら僕も反省して、歯石を除去してもらいに、数年ぶりに歯科に行きました。歯石がかなりたまっていたようで、定期受診を指導されてしまいました。

おいしいものを食べて幸福に長生きするためには、歯を大切に。1日2回の歯磨きと、1日1回の歯間ブラシ、そして年に1度の歯科受診。この3点セットはぜひ心がけていただきたいです。

*1: Takeyoshi Yoneyama, et al. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes.
J Am Geriatr Soc . 2002 Mar;50(3):430-3.
*2:日本歯周病学会
*3: Helen V Worthington, et al. Home use of interdental cleaning devices, in addition to
toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries.
Cochrane Database Syst Rev. 2019 Apr 10;4(4):CD012018.

 
※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。
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