がんより怖いかもしれない「転倒」。リスクがぐっと下がる転倒対策3カ条【医師が伝授】

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『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』 (舛森 悠(Dr.マンデリン)/KADOKAWA)第6回【全7回】

北海道で総合診療科の医師として働く舛森 悠氏。総合診療科とは、特定の疾患や臓器、年代に限定せず、あらゆる患者さんに対し診療を行う科のことで、舛森医師はそこで1万人以上の高齢患者さんを診察してきました。 その著書『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』(KADOKAWA)には、たくさんの患者さんたちのおかげでわかった、気づいた、何歳になっても健康に幸せに生きられる知恵がまとめられています。 「無理に7時間も寝なくていい」「運動よりも仲間とおしゃべり」など、目からウロコの情報の数々のなかから、今日から実践できる健康習慣をご紹介します。

※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。

がんより怖いかもしれない転倒は1枚のシールで防げます

誰しも一度は転んだ経験があることでしょう。子どもの転倒の多くは、ひざのすりむき傷程度ですみます。しかし高齢者の転倒は、その後の生活の質を落とすことにもなりかねません。

転倒して骨折した患者さんの5年生存率は、がんの患者さんよりも低いんだぞ。だから、いかに転ばないかを考えられる医師になりなさい」。これは、僕が初期研修時代に整形外科の指導医の先生から言われた言葉です。この言葉が忘れられず、その後、転倒に関する多くの文献を読みました。そして、ある報告に衝撃を受けました。大腿骨頸部(足の付け根の骨)を骨折すると、1年以内の死亡率が10〜30%だというのです。(※1)かなり多くの方が、骨折後1年以内に亡くなっている計算になります。

整形外科では、転倒で足を骨折した患者さんが毎日のように入院してきます。高齢者に多いのが、大腿骨(太ももの付け根からひざまでの骨)の骨折です。たとえ80歳でも、もともと元気に歩いていた人なら手術をします。手術やその後のリハビリが順調に進み、元気に退院していく患者さんもいらっしゃいます。しかし、筋力の回復に時間がかかる方や、術後の痛みでリハビリが進まず、筋力が落ちて歩けなくなってしまう方も多いのが現状です。

筋力の低下は、骨折後に亡くなる人が多い最大の原因です。例えば、病気などで10日間ベッドで過ごすだけで、筋肉量は平均約1kg低下するという報告があります。一般的な女性の筋肉量は18kgぐらいですから、たったの10日間で約6%の筋肉を失ってしまうことになるわけです。

一度骨折して入院すると、筋力が低下して、再び転倒しやすくなります。さらに、1年間で一度以上転倒した人の6割が、翌年も転ぶともいわれています。(※3)その影響は身体的な影響にとどまりません。一度転ぶと、「次は転びたくない」→「慎重になって活動量低下」→「筋肉量低下」→「転倒リスク増加」と負のスパイラルができあがってしまいます。

すばらしい転倒対策をしていた、Kさんという80代前半の女性の外来患者さんがいました。Kさんは70歳のときに、骨粗鬆症の診断を受けていました。娘さんが介護士をしていることもあり、高齢者にとって転倒が非常に危険であるのをよくご存知でした。それでKさんも、いかに転ばないようにするかを徹底研究されていました。

これは、Kさん直伝の転倒対策です。こちらを実践すれば、転倒・骨折のリスクはぐっと下がるはずです。

Kさんに教わった転倒対策3カ条

・段差には気づきやすいように目印のシールを貼る
・とっさのときにつかまれるように、廊下を家具で狭くする
・廊下のライトは足下がしっかり照らされるものにする

僕が特に感心したのが、転ばない環境を整えている点です。というのも、高齢者の転倒パターンはだいたい決まっています。

段差でつまずくことが多く、そのときに周囲につかまるものがなければ転倒してしまいます。転びやすい時間帯もわかっていて、それは夜にトイレで起きたときです。夜は体に力が入りづらく周囲も暗いため、つまずきやすいのです。

Kさんは今も元気に外来へ通院されています。転倒を恐れて活動を減らすのではなく、環境を整えるというのは非常に見習うべきことだと、Kさんは僕に教えてくれました。

*1: 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会 厚生労働省医療技術評価総合研究事業「大腿骨頚部骨折の診療ガイドライン作成」班編集:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン南江堂;2005;113-155.
*2: Ryan D McMahan, et al. Deconstructing the Complexities of Advance Care lanning
Outcomes: What Do We Know and Where Do We Go? A Scoping Review. J Am Geriatr oc.
2021 Jan;69(1):234-244.
*3: R F Uhlmann, et al. Perceived quality of life and preferences for life-sustaining treatment in older adults. Arch Intern Med. 1991 Mar;151(3):495-7.

 
※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。
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