「眠れない」という患者に効果のあった睡眠改善3カ条。総合診療科の医師が解説

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『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』 (舛森 悠(Dr.マンデリン)/KADOKAWA)第2回【全7回】

北海道で総合診療科の医師として働く舛森 悠氏。総合診療科とは、特定の疾患や臓器、年代に限定せず、あらゆる患者さんに対し診療を行う科のことで、舛森医師はそこで1万人以上の高齢患者さんを診察してきました。 その著書『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』(KADOKAWA)には、たくさんの患者さんたちのおかげでわかった、気づいた、何歳になっても健康に幸せに生きられる知恵がまとめられています。 「無理に7時間も寝なくていい」「運動よりも仲間とおしゃべり」など、目からウロコの情報の数々のなかから、今日から実践できる健康習慣をご紹介します。

※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。

加齢とともに睡眠時間が短くなるのは普通です

僕たちの人生のおよそ3分の1はベッドの上といわれます。人生を90年とすると、およそ30年は寝ていることになります。人間にとって睡眠はそれほど重要なものなのです。

しかし、「毎晩熟睡できて、たっぷり寝ている」という人はそう多くはありません。むしろ「よく眠れない」「じゅうぶん寝た気がしない」という人のほうが多いでしょう。 

睡眠中には成長ホルモンが多く分泌されて、体の疲労が回復しますし、脳の中での記憶の整理も寝ている間に行われます。ですから睡眠習慣を改善すれば、体も頭もスッキリして、人生はより豊かなものになると言っても過言ではないのです。

僕の外来の患者さんたちの中でも、睡眠のトラブルを抱えていない人は比較的元気な印象です。逆に、睡眠が不足すると、日中の集中力が落ちたり、疲れやすくなります。「眠れなくてつらい」と言って外来を訪れる人もいます。

Tさんも「眠れない」と外来を訪れた1人です。70代後半の女性で、姿勢がよく、年齢よりも10歳ぐらい若く見えます。

Tさんの場合、寝入りはいいのですが、夜中に目覚めてしまうことがあり、その後になかなか寝つけないとのことでした。そのため寝た気がせず、朝方に眠くなってしまうので、床から出るのは午前10時頃になっていました。

僕の外来にいらっしゃる前から他の病院で睡眠薬を処方されており、長期間服用していました。僕は、「薬に頼らなくても眠れるようにしていきましょう」と以下の3点を提案しました。

Tさんに効いた睡眠改善3カ条

・寝る時間よりも起きる時間を固定する
・自宅での運動は寝る3時間前までにすませる
・途中で目覚めたら、眠くなるまで読書などをして過ごす

これらは僕も実際に心がけていることです。Tさんは忠実にこれらのルールを守ってくださいました。

まず「起きる時間を固定する」ですが、どんなに眠りが足りなくても決まった時間に起きれば、そのときは若干疲れた感じがしても、その次の夜にはぐっすり眠れるものです。

そもそも睡眠には、とても大事な大前提があります。それは、眠れないせいで、日中に何か困っていることがあるかどうかです。眠れないと、たしかにつらいかもしれません。その気持ちはじゅうぶんに理解できます。

しかし、眠れなくて焦ってしまうと、余計に眠れなくなるという悪循環に陥ることも多いのです。 

一度、あなたの不眠が日中に何か影響を及ぼしているかを考えてみてください。特に問題が発生していなければ、それほど心配することはないかもしれません。

Tさんも朝起きる時間を固定してみましたが、眠れていないからといって、何か困ることはなかったようです。むしろ、朝決まった時間に起きるので、夜になると自然と眠くなってきて、そのまま眠りにつくようになっていきました。

またTさんは、どちらかというと夜行性で、夕食後に台所で壁に向かって腕立て伏せをしていました。

睡眠のためには副交感神経が優位になっていなければならないのに、睡眠の前に運動をしてしまうと交感神経が高ぶってしまい、体内で睡眠のスイッチがうまく入らなくなってしまいます。ですから、寝る前に行う運動は、なるべく睡眠の3時間前に終わらせることが大切です。

そして睡眠改善法の中でも極めつきなのが中途覚醒時の対処法です。夜中に目が覚めて眠れないときには、思い切ってベッドから出てしまいましょう。

Tさんは、眠れないときには、いつもベッドの上でテレビを見ていました。ついついテレビを見すぎてしまって、再び眠りにつくのは朝方――なんてことを繰り返していたのです。

この習慣で問題なのはテレビを見ることもそうですが、僕がもっと問題視しているのはベッドの上でテレビを見ることです。人によっては、もしかすると普通のことと思われるかもしれませんが、実はベッドの上で"眠る"以外の行動をとっていると、脳が「ここは眠る場所じゃなくて、テレビを見たりする場所」と勘違いしてしまう可能性があるのです。

ですから、眠れないときには眠くなるまで寝床に入らず、脳に「ベッドは眠る場所」というメッセージを与えてください。こうすることによって睡眠リズムが格段に改善することが期待できます。

先述の睡眠改善3カ条を実施するようになってから、Tさんは睡眠の悩みから解放されました。「睡眠は自分でコントロールできる」という自信にもつながったようです。

また自分なりに工夫もしていて、熟睡感を得るために、睡眠前にラベンダーのお香を焚いたり、筋トレではなく簡単なストレッチをしてから眠るようにしていると話していました。

今では睡眠薬からも卒業できたそうで、毎晩、安眠ライフを堪能しているようです。

そしてもうひとつ。睡眠改善3カ条とともに覚えておいていただきたいのが、人間の平均の睡眠時間は齢を重ねるとともに短くなっていくということです。(※1)

アメリカのある研究によると、高齢者世代では5時間ほどの短めの睡眠時間でも問題ないとの報告もあります。(※2)

「昔は8時間眠っていたから、8時間寝ないと気がすまない」と言う人もいます。

でも、それより少なくても日中に困らなければ、あなたの睡眠時間はそれでじゅうぶんなのかもしれません。

眠れないことによって、日中に困ることがあるのか? という視点で自分の睡眠を見直してみれば、眠れないからといって焦る必要はなくなるかもしれません。

「眠れない」という患者に効果のあった睡眠改善3カ条。総合診療科の医師が解説 名称未設定-2.jpg

*1: Shalini Paruthi, et al. Recommended Amount of Sleep for Pediatric Populations: A Consensus
Statement of the American Academy of Sleep Medicine. J Clin Sleep Med . 2016 Jun
15;12(6):785-6.
*2: Nathaniel F Watson, et al. Joint Consensus Statement of the American Academy of Sleep
Medicine and Sleep Research Society on the Recommended Amount of Sleep for a Healthy
Adult: Methodology and Discussion. J Clin Sleep Med. 2015 Aug 15;11(8):931-52.
*3:厚生労働省 e-ヘルスネット 高齢者の睡眠

 
※本記事は舛森 悠(Dr.マンデリン)著の書籍『総合診療科の僕が患者さんから教わった70歳からの老いない生き方』から一部抜粋・編集しました。
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