大腸がんになる人は「便秘」の人に多い
疫学的データを見ると、実は便秘と大腸がんのリスクにははっきりとした相関は認められていません(Clin Epidemiol. 2019)。
日本から報告されている研究のように、便秘と大腸がんの相関を認めたというものもありますが(Eur J Cancer. 2004)、逆に便秘の人の方がリスクが下がるという研究結果も報告されています(Am J Epidemiol. 2010)。
大腸粘膜と便中の発がん物質との接触時間が長くなる便秘の状態によりポリープやがんを発生させるリスクが高くなることは間違いありません。
しかしどうしてこのようにデータにははっきり表れないのでしょうか?
「あなたは便秘ですか?」と聞かれて便秘ではないですと答える人の中には、排便が2~3日に1回しかない人も多く含まれます。
それは便秘の定義が難しいからに他なりません。
便秘の定義は様々ですが、原則、男性なら1.5日、女性なら2日以内に食べた食事から作られた便が出なければ便秘です。
数日に1回の排便でも自分は便秘ではないと思っている人に疫学的なインタビューをしても、便秘ではないと答えてしまいます。
調査の中には1日の排便回数を尋ねるものもありますが、大腸の中に大量に便がたまっているけれども1日に1回排便がある人(実は出ている便は1週間以上前に食べたものかもしれない)も便秘なしと数えられてしまう可能性があります。
そのため便秘と大腸がんの関連を調査することは難しいのです。
しかし、大腸がんの手術を多数行った経験から、大腸がんの人が便秘の人に多いことは間違いありません。
大腸の術後は通常3日から7日で食事を再開します。
そして大部分の人が術後に下剤を必要とします。
おなかに傷があるので力強く腹圧をかけられないからです。
しかし、おなかの傷が癒えたあとでも、下剤がないと排便がうまくいかない人が80%以上を占めます。
もともと腸を動かす力が弱いため下剤がないとうまく排便できないのです。
術後の後遺症とも考えられている便秘ですが、もともと便秘傾向であるために術後に生涯にわたって下剤を必要とする人も珍しくありません。
便秘を解消することは、大腸がんのリスクを下げる最も取り組むべき課題であると僕が考える理由です。