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歩くとがんの死亡率が下がる
長野県が最も心がけたことは、歩け歩け運動です。歩くことによって、平均寿命日本一になりました。歩くと血圧が下がり、血糖値が下がることは、多くの医師が認めてきました。メタボ健診が始まり、腹囲が測られるようになり、内臓脂肪が多いとそこから血圧や血糖値を上げる物質が出ていることが分かってきました。歩くと内臓脂肪が減る。内臓脂肪が減れば、血圧や血糖値が下がるのです。
歩くことで、骨が強くなることも事実。日本人の寝たきりの多くは、「フレイル」といって骨や関節や筋肉が弱くなることが原因です。歩くことで寝たきり予防になるのです。
また、さらに驚くようなデータがこの10年の間に出てきました。歩いている人は、がんが少ない。なぜなのだろう。そんなことが本当にあるのだろうかと不思議に思っていたが、徐々に解明されてきた。
太ももを中心に脚の筋肉から、マイオカインという筋肉作動性物質が出ます。このマイオカインには、血糖値を下げ、血圧を下げる作用があることが分かってきました。同時に、慢性炎症による細胞の老化や傷つきを防ぐ。つまり、細胞のがん化を防いでくれるというのです。
貯金より貯筋(ちょきん)でがんを減らせ
40歳くらいから貯筋をしておく必要があります。太ももの筋肉の貯筋。それにはスクワットがいい。手を上げた姿勢から、手を下げながら、和式トイレのような姿勢になるまで下がっていき、ゆっくり手を上げながら立ち上がる。「ヒンズースクワット」といいます。「ヒンズースクワット」には何種類かやり方がありますが、手の反動を使うと、運動慣れしていない人でもやりやすいのです。
以前、黒柳徹子さんと二人で本(『トットちゃんとカマタ先生のずっとやくそく』(新潮文庫、2010年刊)を出した時、聞きました。彼女はスクワットを50回やっているのです。
太ももは太ければいいというわけではない。皮下脂肪ではだめ。筋肉に置き換えていかなければならない。そのためには、スクワットをし、歩くことが大切なのです。
がんセンターや大学病院が、地域にあるのは悪いことではありませんが、高度医療を行う病院がないと、がんの死亡率が下がらないわけではありません。「先端医療があれば安心」と、だまされないこと。先端医療があることはいいことだけど、もっと大事なことがあることを忘れないようにしましょう。
生活習慣の見直しを皆さん本気でやってみませんか。
鎌田 實(かまた・みのる)さん
1948 年生まれ。医師、作家、東京医科歯科大学臨床教授。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。近著に『遊行(ゆぎょう)を生きる』(清流出版)、『検査なんか嫌いだ』(集英社)、『カマタノコトバ』(悟空出版)、『「わがまま」のつながり方』(中央法規)。