疲労困憊の末つい言ってしまった「介護のキーパーソン引き受けます」宣言/別居嫁介護日誌

「妊娠・出産・育児」をすっとばして、いきなり「介護」が始まった! 離れて暮らす高齢の義両親をサポートしている島影真奈美さん。40代にさしかかり、出産するならタイムリミット目前――と思っていた矢先、義父母の認知症が立て続けに発覚します。戸惑いながらも試行錯誤を重ね、いまの生活の中に無理なく介護を組み込むことに成功。笑いと涙の介護エピソードをnoteマガジン『別居嫁介護日誌』からご紹介します。なんとなく親の老いを感じ始めた人は必読!


義父も義母も、本気で「女ドロボウがいる」と信じ込んでいるとわかった前回。義父母は女ドロボウに向かって、せっせと手紙を書き、改心をうながそうとしていました。何をどうしたらいいのか――。義父母がもの忘れ外来受診に前向きだったことに望みをかけ、「そっとしておく」を選択したけれど、実家からは連絡がないまま、数ヶ月が経ってしまいました。

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義両親の様子がどうもおかしい。その変化に直面しながらも、何もできずに終わってしまった2017年のお正月。待てど暮らせど、「もの忘れ外来を受診した」という連絡は入らないまま、1ヶ月が経ち、2ヶ月が経ち......。さすがに、こちらから電話をかけて確認すべきかと思い始めた矢先、義姉から夫に電話がかかってきた。

「母の様子がおかしいの!!!」

義姉から夫に連絡があったのは、たしかゴールデンウィークが明けてすぐの時期だった。夫によると「姉貴は案の定パニックを起こしていて、何を見聞きしたのか確認するだけでひと苦労だった」という。

発覚は、いとこの春子さん(仮名)が義父母を訪ねてくれたのがきっかけだった。介護経験のある春子さんは、そこにあった違和感にすぐ気づいたらしい。

さりげなくのぞいた冷蔵庫には賞味期限切れの食材がぎっしり詰まっていたし、テーブルには食べかけの食品が放置されていたという。決定的だったのは義母が「お父さまが久しぶりに遊びに来てくれたの!」などと語っていたことだった。ここでいう「お父さま」は義父のことではなく、義母の実父。夫が幼い頃に亡くなった祖父のことだ。

「死んだ人が見えるなんて!!!」と義姉は嘆き悲しみ、「とにかくヘルパーを頼むべき」と夫に強く主張していたそうだ。夫は「検討は必要だろうけど、一足飛びにヘルパーを頼む話になるのは違うような......」と首をひねっていた。

なんせ、義母の悩みの種は"女ドロボウ"である。そんな中、ヘルパーさんが出入りするようになったら、それこそ「見知らぬ女性が!!!」と大騒ぎになりそうな気もした。

春子さんの勧めもあり、ひとまず地域包括支援センター(以下、地域包括)に相談に行くことになったと聞かされた。義姉は当初、ひとりで面談に行くつもりでいたと思う。夫と義姉、私の3人で作った介護情報を共有するためのLINEグループにも、そんなメッセージが流れていた。

これまでの関係性を考えれば、そのまま義姉に任せるのが自然な流れだった。夫は長男ではあるけれど、末っ子で親とは長い間、疎遠な関係だった。結婚するまでは実家にまったく寄りつかない生活をしていた。しかも、地域包括に相談に行く日は地方出張が重なっている。

なのに私は、何を血迷ったか、「大学院が休講なので一緒に行ってもいいですか」と義姉に提案してしまう。一体何を考えていたのか。

おそらく半分は好奇心。大学院の授業の中でも時折耳にしていた「地域包括支援センター」という場所が何をしてくれる場所なのか。どんなやりとりがあるのか、見てみたかった。もう半分は、ヘンな使命感だった。

これまで義姉と会うときはいつもお互いの家族が一緒で、ツーショットになったことは一度もない。夫がいないところで、ふたりきりで会うのは正直不安だった。ただ、多少気まずい思いをするとしても、ここは歯をくいしばってでも、行っておくべき局面のような気がしていた。

 

地域包括での面談内容は仰天することばかりだった。まず、最初に驚いたのが、相談対応してくれた看護師さんに「じつは訪問させていただいておりました」と聞かされたことだ。

義父母はすでに、地域包括の"見守り対象"だった。父が憤慨していた盗難騒動があった折り、通報した地元の警察署から地域包括に連絡があったという。義母が「見知らぬ女性がすみついている」と訴えていることも、「薬や洋服が盗まれる」と嘆いていることも地域包括は把握していた。

これまで複数回訪問する中で、それとなく介護保険の利用を義両親に勧めてくれていたともいう。

しかし、義母は「わたくしたちはまだ困っておりませんので、もっと困っているお年寄りを助けてあげてください」と丁重にお断り。義父は「子どもたちは皆、仕事があり忙しいので迷惑をかけたくない」「子どもたちには絶対電話をしないでください」と繰り返し念を押していたそうだ。

「ご本人たちがそうおっしゃるので、私たちとしてもそれ以上の介入がむずかしくて......。ご家族さまからご連絡をいただけて本当に良かったです。本当にありがとうございます」

いやいや、お礼を申し上げたいのはこちらのほうで、何も知らずにのんきに構えていて、申し訳ありません。頭を下げあいながら、お互いの知っている情報をすり合わせ、次の対応策を相談する。

訪問介護などの介護保険によるサービスを利用するには、まず要介護認定を受ける必要がある。その申請のためには、主治医を決めなくてはいけない。できれば、認知症だという診断が確定しているのが望ましい。

......ってどうやって、それ実現するの? 「自分たちはまだまだ大丈夫!」と信じて疑っていない親に、どう話を持っていけばいいのか。

途方に暮れる私の横で、義姉は「やっぱりヘルパーを入れたほうがいいですよね!」と熱く主張していた。

看護師さんたちは「そうですねえ......」と、やさしく相づちを打ちながら、具体的な手続きの話に戻そうとしていた。介護の窓口になる「キーパーソン」を決める必要があるという。だが、義姉のマシンガントークは止まらない。

「そういえば、民生委員の方に訪問してもらったりできないんですか? あのあたりは町内会がしっかりしていると思うんですけど。町内会長は変わっていなければ、通りの向こうにある大きな家の......そうそう、今日って父の誕生日なんですよね。実家には寄りませんけど」

何の話だよ! 助けて!!

UP第8話島影様介護日誌.jpg 

地域包括から帰る道すがら、義姉は「なんかいろいろ大変なことになりそうだね。これからどうしたらいいんだろう......」と不安そうだった。私は私で心底、疲れ果てていた。そして、思わず言ってしまう。

「手続きとか引き受けますよ。平日動けますし」
「本当に? それは助かるわ。仕事をそうそう休むわけにもいかないから」

口にしてから気づいた。夫に何も相談していない。その場の勢いに任せて、「キーパーソンになる!」と宣言してしまったのだ。

 

●今回のまとめ
・地域包括支援センター(地域包括)は、地域のお年寄りのよろず相談窓口
・介護が必要になったときはもちろん、"介護未満"の困りごとも地域包括に相談するのが◎
・家族を代表して、医療機関や介護サービス事業者と交渉・連絡をするのが「キーパーソン」の役目

 

次の記事「「孫はまだか」もなく私を励ましてくれた義父母のために、よっしゃやるか! しかし夫は.../別居嫁介護日誌(9)」はこちら。

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イラスト/にのみやなつこ

 

島影真奈美(しまかげ・まなみ)

フリーのライター・編集として働くかたわら、一念発起し、大学院に進学した数ヵ月後、夫の両親の認知症が同時発覚。なりゆきで介護の采配をふるうことに。義理の関係だからうまくいくこと、モヤモヤすること、次から次へと事件が勃発。どこまで理解しているのか謎ですが「ぜひ書いて!」という義父母、義姉、夫の熱烈応援(!?)に背中を押され、この体験記を書き始めました。

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