預けっぱなしは厳禁! 施設での安心できる生活にはスタッフとの関係作りが不可欠/介護施設

男性の平均寿命は80.98歳、健康寿命は72.14歳、女性の平均寿命は87.14歳、健康寿命は74.79歳です(厚生労働省の2016年の調査より)。健康寿命とは"日常生活に制限のない期間の平均"のこと。平均寿命と健康寿命との差は、裏を返せば日常生活に制限がある期間のことで、おおよそ10年あります。この10年をどこで、どのように暮らすのか。自身にとって、また親や子ども、夫・妻など家族にとって重要な問題です。

そんななかでの選択肢の一つが「介護施設」です。特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など昨今は種類が増えて利用者の選択肢が広がっています。それぞれの施設のメリットやデメリット、施設を選ぶときのポイントなどを、ケアタウン総合研究所の高室成幸さんに伺いました。

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預けっぱなしは厳禁! 入居後は、時間を作って小まめに面会に行く

施設が決まり、入居が終わったらとりあえずひと区切りです。少しホッとする気持ちと、親を施設に預けた後ろめたさと、家族も複雑な気持ちを抱えます。
そして、入居した本人も、住み替えの直後は新しい環境に慣れるまで不安な気持ちです。
スタッフも他の利用者も、周りは知らない人ばかり。新しい環境で新しい関係を作っていくことはとても大変なことです。特に高齢者は環境の変化にも弱いといわれていて、それがきっかけでうつや認知症のような症状が出ることもあります。

「施設に預けっぱなしにしてしまうと、施設のサービスに合わないところがある、スタッフとうまくいかないなど本人が悩んでいても家族は気付くことができません。利用者の変化に気付くためにも、そして施設スタッフとよい関係を築くためにも面会は重要です」(高室さん)

本人が寂しい思いをしなくてよいように、安心して時間を過ごしてもらえるように、時間があれば様子を見に施設に足を運びましょう。

 

◆面会が、利用者とスタッフとの関係に影響が出るのはなぜ?
「スタッフは入居者すべてに公平に接することが原則ですが、スタッフも当然、人であり、心があります。家族や友人などがよく面会に来ることでその人が"みんなに大切にされている"こと、"見守り役がたくさんいる"ということを印象付けることができます」(高室先生)

しかし、ただ面会に行けばいいというわけではありません。介護施設は共同生活の場です。施設の規則を守り、節度のある行動をしましょう。なぜなら、家族が周囲に不快な思いをさせることで、入居者本人の暮らしやすい人間関係づくりに影響が出てしまうこともあるからです。

例えばあなたが利用者だとして、共用スペースを占拠している人がいたり、大声で話している人がいたら、どう感じますか? 周りの人が不快に感じることをしない、施設スタッフや他の利用者の方には笑顔で挨拶をするなど心がけましょう。

また、こまめに面会に行くことで、施設スタッフと話しやすい関係をつくることはより良いケアを受けるためにも大切なことです。「家族も施設側と一緒になって介護をする気持ちが大切」だと高室さんは言います。

「散歩に行くのに介助すればゆっくり歩ける人なら、本当は歩いた方がいいけれど、転倒が恐いので車いすに乗せてしまう。そういうことを続けていると脚力は衰えてしまいますよね。本来の機能が失われて、要介護度が上がる要因になります。
しかし利用者やその家族は、高いお金を払っているのだからこれはやってくれて当然、どうして怪我させたのだとクレームにつながりかねません。そのため、施設側はナーバスになり、過度な介護をしてしまいがちです。家族は預けっぱなしにするのではなく、施設とケアの方針を相談・確認しつつ施設側と一体になって介護をする気持ちが大切です」(高室さん)

サービスに不満があるときや相談したいことがあるときは直接スタッフに伝えるのも家族の役割。そういうときにも施設スタッフと良い関係を作っておくと話がしやすくなります。

 

◆利用者がスタッフを虐待することもある
介護施設で施設スタッフによる利用者への虐待がニュースになることがありますが、そういったこともこまめに面会に行くことで、本人の様子の変化を早期に察知することができます。「見られている」ことが「施設側への抑止力」にもつながります。

「様子がおかしいなと感じたら、体をさする、拭いてあげるなどしてアザや痛みがないか確認をする。施設を散歩しながら見かけるスタッフさんを、"あの人どんな人?"と聞いてみて返答に窮しないかなどを観察しましょう」(高室さん)

また、ニュースでは高齢者が虐待をされる側としてよく取り上げられますが、入居者による施設スタッフへの暴力・暴言なども問題になっています。

「入居者が介護スタッフに暴言を吐いたり、たたくなどの暴力をはたらいたり、男性入居者が女性スタッフの体を触る、性的な言葉や話題を持ち出すなどのセクハラ行為は頻繁に起こっています。しかし施設側から家族へはなかなか言い出せないケースが多く、それが介護スタッフのストレスや離職にもつながりかねません。

自分の家族が施設でどう過ごしているのか、問題はないか、家族から施設へ尋ねるなど、お互いにより良い関係をつくる努力が必要です」(高室さん)

 

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取材・文/ほなみかおり

 

 

高室成幸(たかむろ・しげゆき)さん

1958年京都市生まれ。日本福祉大学社会福祉学部卒。ケアタウン総合研究所代表、日本福祉大学地域ケア研究推進センター客員研究員、日本ケアマネジメント学会会員。介護施設、都道府県や市町村のケアマネジャー、地域包括支援センターなどを対象に研修を行い、施設職員対象も手掛ける。『図解入門ビギナーズ 最新介護保険の基本と仕組みがよ~くわかる本』(秀和システム・監修)、『もう限界!シリーズ全10巻』(自由国民社・監修)、『新・ケアマネジメントの仕事術』(中央法規出版・著)など著書多数。

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