男性の平均寿命は80.98歳、健康寿命は72.14歳、女性の平均寿命は87.14歳、健康寿命は74.79歳です(厚生労働省の2016年の調査より)。健康寿命とは"日常生活に制限のない期間の平均"のこと。平均寿命と健康寿命との差は、裏を返せば日常生活に制限がある期間のことで、おおよそ10年あります。この10年をどこで、どのように暮らすのか。自身にとって、また親や子ども、夫・妻など家族にとって重要な問題です。
そんななかでの選択肢の一つが「介護施設」です。特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など昨今は種類が増えて利用者の選択肢が広がっています。それぞれの施設のメリットやデメリット、施設を選ぶときのポイントなどを、ケアタウン総合研究所の高室成幸さんに伺いました。
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介護施設の良し悪しはスタッフの質に左右されます
介護事業はスタッフの人材不足だといわれていますが、介護労働安定センターの調査によると離職率は16.2%で、全産業の平均離職率の15%(厚生労働省の平成28年雇用動向調査結果より)を上回っています。主な理由は人間関係や運営方針への不満、将来への不安や収入などが挙げられています。
「介護業界は人手不足が常態化しているところが多く、離職率は高い傾向にあります。休みが取れない、賃金が安いなど過酷な状況が原因といわれていますが、働く人の環境は利用者への対応(ケアの質)にかえってきます。安心してサービスを受けるには、スタッフが安定していなければいけません。働く人を大切にしている運営会社の施設は、スタッフの勤続年数も長いのが特長です」(高室さん)
新しいスタッフばかりという施設は、離職する人が多い可能性が高いので、施設の見学時などにスタッフの勤続年数などを確認しましょう。
◆どのようなスタッフがいるか、施設見学のときにチェックしましょう
施設には、介護付きであればケアプランを作ってくれるケアマネジャー(介護支援専門員)、いろいろな相談をする社会福祉士や生活相談員、実際に介護をしてくれる介護福祉士や介護スタッフなど、多くの人が働いています。
「介護施設での生活の中で利用者が一番身近に長く接するのは、施設スタッフです。快適に暮らし、適切なサービスを受けるためには、施設スタッフの質がとても重要です」と高室さん。施設の見学に行ったときには設備などハード面だけでなく、そこで働く施設スタッフの様子を観察しましょう。
<見学時にこんなスタッフがいたら要注意>
・走る、大きな声を出すなど施設内をあわただしく動いている。
・身だしなみが整っていない。
・仕事をダラダラとしている。
・笑顔がない、無表情である。
・子ども言葉で入居者に接する。
「介護施設がたくさんできすぎてしまい、いまは人材が足りない状況です。なかには無資格で働く人もいて技術が追いついていないことによる事故も発生しています。スタッフの能力の向上には研修や教育は欠かせません。入社の際に介護技術やマナー、プライバシーの保護などの研修や、技術向上のための教育が行われているかどうかはサービスの質に関わってきます」(高室さん)
これらの研修が実際どのように行われているか、施設に尋ねましょう。
このように、スタッフのあり方は利用者の暮らしに直接響いてきます。
「利用料が高い施設だから良いケアを受けられるというわけではありません。
民間施設だと営利のため"もてなし"の精神からスタッフが何でもやってしまう場合があります。しかし"介護"という視点では、何でもやってもらうことで利用者は本来持っている能力を使わなくなり、機能低下につながってしまいます。一方、やらなければやらないで家族からの苦情につながるというケースもあるのが難しいところ。ケアの仕方にも施設によって差があります」(高室さん)
介護施設はお試し入所ができるところが多くあります。施設によっては家族も宿泊できます。一緒に昼食を食べたり、入居者に対する接し方を観察したり、夜の施設の様子を知るのにもお試し入所はおすすめです。
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取材・文/ほなみかおり