男性の平均寿命は80.98歳、健康寿命は72.14歳、女性の平均寿命は87.14歳、健康寿命は74.79歳です(厚生労働省の2016年の調査より)。健康寿命とは"日常生活に制限のない期間の平均"のこと。平均寿命と健康寿命との差は、裏を返せば日常生活に制限がある期間のことで、おおよそ10年あります。この10年をどこで、どのように暮らすのか。自身にとって、また親や子ども、夫・妻など家族にとって重要な問題です。
そんななかでの選択肢の一つが「介護施設」です。特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など昨今は種類が増えて利用者の選択肢が広がっています。それぞれの施設のメリットやデメリット、施設を選ぶときのポイントなどを、ケアタウン総合研究所の高室成幸さんに伺いました。
前の記事「施設での安心できる生活には、スタッフとの関係作りが不可欠!/介護施設(12)」はこちら。
サービスの内容から有資格者の人数まで分かる施設の重要書類です
有料老人ホームとの契約前に渡される書類に「重要事項説明書」があります。これは運営事業者の情報や施設サービスの内容、必要な費用などが細かく書かれた書類です。十数ページもある書類なので読むのは大変。でもこれには居住環境、職員、サービスなどの文字通り重要な情報が詰まっています。契約時にはこの説明書に同意のサインをするので、入居後に"こんなこと聞いていない"では通りません。契約前にしっかり目を通しましょう。
重要事項説明書は施設の情報が詳細に記されているので、施設探しの資料としてもとても有効です。各施設の比較をして見学施設を絞り込んだり、見学時に施設に質問することも整理したりできます。見学前にパンフレットと一緒に取り寄せるか、施設によっては施設のホームページや自治体ホームページの公開情報から閲覧できるところもあります。
「ホームを探す際は施設の"経営母体"にも注目してみてください。大手だから安心というわけではありません。株式上場企業だと逆に他の企業に吸収されるリスクがあり、もし経営母体が代われば、施設の方針やサービス内容などが変わる可能性もあります。
そういった疑問が出たときは、施設に直接確認をしましょう。そのときの受け答えの仕方でも施設が誠実か誠実でないかを感じ取ることもできます」(高室さん)
では、重要事項説明書ではどのように情報を確認していくとよいのでしょう。項目は大きく6つあるので、それぞれのポイントをお伝えします。
1.事業主体
経営母体の会社の設立年月日などの他、該当施設以外に行っている介護事業や介護以外の分野の事業などを確認しましょう。
2.事業所概要
所在地やアクセス、建物の構造や消防設備、敷地面積など施設の概要です。
介護保険の施設や事業所の開設時に都道府県から付与される「介護保険事業所番号」が明記されているか、必ず確認を。また、「施設の開設年月日」に「当初開設日」の記載がある場合は、他者から事業継承した施設であることを示しています。
3.従業者に関する事項
介護スタッフ、看護スタッフ、生活相談員、機能訓練指導員、栄養士、介護支援専門員(ケアマネジャー)など、職員体制が分かります。職員の勤続年数が短い人ばかりだと安定したケアが受けられるか不安要素にも。
介護福祉士、理学療法士、作業療法士など資格保有者がどれくらいいるかもポイントです。
4.サービスの内容
食事、入浴、排せつ、健康管理、服薬管理などのサービスの有無の他、安否確認の方法や医療ケアの内容などが記載されています。「協力医療機関」が明記されているので、持病がある人は利用できる診療科があるか確認しましょう。
「入居の条件」として利用者の年齢、要介護度、医療的ケア、認知症の方の受け入れの可否などが明記されています。自立しているときから入居できる施設は、介護が必要になると要介護者用の居室棟への住み替えが必要な場合があります。「要介護になってからの居室の移動」の項目でその有無やその際の前払金・追加料金などについても確認しましょう。
5.入居者
すでに入居している方々の人数、要介護度や年齢が示されます。注目したいのは「入居期間」と「直近1年間に退去したものの人数と理由」、そして「入居率」。
退去後の行き先が明記されているので、行き先が自宅や他の有料老人ホームなどの場合は退去理由としてトラブルなどがあったことも推測されます。また、有料老人ホームが安定した運営をするための入居率は85~90%といわれています。開設から数年たっても入居率が低い施設は注意が必要です。
6.利用料金
前払金、月額利用料、管理費、食費、水道光熱費などを明記した支払いプラン、介護保険サービスの自己負担額などが分かります。
重要なのは「前払金の取り扱い」についての記載です。前払金(入居一時金)とは、あらかじめ家賃の全額、または一部を一括で施設に納めるもの。退去時の前払金の返還金の算定方法が書かれています。初期償却率(入居時に償却される割合)や償却年月数、想定居住期間は施設により設定が異なります。
また法改正により、前払金の保全措置が義務付けられています(2006年3月31日以前に届け出た有料老人ホームは3年間の経過措置、2021年度から義務化)。保全とは、施設が銀行や保険事業者と契約し、入居者の前払金を守ること。万が一施設が破産したり業務停止に陥った際に、保全がされていると500万円を上限に前払金が返還されます。保全先と制度が適用される条件が明記されているか確認を。
取材・文/ほなみかおり