介護が必要になったとき、自宅に住み続けながら介護を受けることを「在宅介護」といいます。内閣府の調査によると、在宅介護を望む人は男女とも7割を超えています。今後、親や家族、配偶者、そして自分の介護などに、直面することもあるでしょう。在宅介護を行う上で、どのように介護保険を使ったらいいのか、ケアマネジャーとの関係や家族の関わり方などについて、現役の主任ケアマネジャーである田中克典さんに聞きました。
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実際に介護保険を使って生活しているケースを2例紹介します。家族が同居または近居で支えながら、必要に応じて介護サービスを利用しています。
●ケース1:一人暮らしの認知症の母親を近所に住む息子たちが介護
73歳のAさんは夫に先立たれた後、自宅で一人暮らしをしていましたが、家の中の片付けができなくなり軽度の認知症と診断されました。要介護2です。Aさんは「住み慣れた家でできるだけ暮らしたい」「自分でできることは何でも自分で行いたい」と希望しています。Aさんの1カ月の年金額は国民年金と遺族年金を含めて約20万円。なるべく年金の中で介護費も含めて生活ができるようにしたい、とケアマネジャーに相談しました。
Aさんが認知症と診断されてガス台のグリルで魚を焦がしてからは、ガス台はお湯を沸かす程度しか使用しなくなりました。いまは近くのスーパーでお総菜を購入したり、昼食はお弁当の宅配を利用しています。近所に住む長男は週末に訪問して、Aさんの見守りや身の回りの世話を行い、長男の妻は火曜日に訪問し、かかりつけ医への通院に付き添ったり、冷蔵庫内の古くなった食品を廃棄したりします。それ以外にも電話をかけて安否確認を2日に1回行っています。
近所には独身の次男もいて、毎晩Aさんと一緒に夕食を食べて、認知症の薬を飲ませています。次男はAさんに自分の洗濯物を渡して洗濯を依頼。息子の洗濯をすることで、Aさんは何歳になっても母親という認識を維持できているようです。Aさんはいまのところ子どもたちに支えられて生活できる状態ですが、介護期間は長期化しています。子どもたちの介護負担の軽減や、この先、誰かが病気になったときのことを考えて、ショートステイ(短期入所生活介護)を毎月1回、3泊4日で利用しています。Aさんの1カ月の介護費用は1割負担で約24,000円です。家族が手分けしてサポートすることで介護費用を抑えています。
●ケース2:病気がちな妻を夫が老老介護で支えて仲良く暮らす
持ち家の一軒家で暮らすBさんは75歳で要介護1、妻のCさんは70歳で要介護2です。子どもはいません。Cさんは40歳代から慢性関節リウマチを患っています。年齢とともに少しずつ悪化して歩行が困難になり、最近では1人で通院することができなくなりました。主治医の勧めもあって介護保険を申請し、要介護2と認定されました。Cさんの介護を行っていた夫のBさんは、風邪をひいたことが原因で肺炎になり入院。肺炎は治りましたが、退院後、足元がおぼつかなくなり、Bさんも介護保険を申請して要介護1と認定されました。
2人とも介護保険を利用しながらいままでのように自宅で暮らすことを希望。訪問介護の生活援助を利用し、ヘルパーに来てもらって掃除、調理、買い物などを週3回、各1時間頼んでいます。2人とも病院への通院がむずかしいため訪問看護サービスを利用。看護師が自宅に来て健康状態を観察しています。
2人ともデイサービスやショートステイなどは利用せず自宅で過ごしています。健康だったころは夫のBさんが夕食の支度をしましたが、要介護1になってからは、介護保険外の自治体や民間のサービスである配食サービスを利用。訪問介護でヘルパーに調理を頼むよりも費用を抑えられています。介護費用は1割負担で夫婦2人合わせて1カ月約3,000円です。それ以外に夕食の弁当代が1食500円×25日分×2人で1カ月25,000円になります。いまのところ2人で支え合いながら自宅で生活できますが、この先、介護サービスやショートステイが増える可能性があります。将来的には施設入所の選択が出てくるかもしれません。
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取材・文/松澤ゆかり