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介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。実は介護破産の原因には、単に資産の多寡だけでなく、介護に関する「情報量」も大きく関わってくるのです。
本書「介護破産」で、介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法を学んでいきましょう。
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仕事と介護の両立は可能か
介護で一番辛いのは、睡眠不足に陥ること。夜中に排泄の介助のために起こされてそれから寝付けない。生活のリズムが乱れ、体調も悪化する―。そんな負のスパイラルに陥り、心身ともに疲労困憊する。
都内に住むヨウコさん(仮名、49歳)は2年前、父(享年92歳)と母(享年83歳)を相次いで看取った。二人の世話に明け暮れて夜も満足に眠れない生活が続いたとき、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」という新しいサービスに切り替えた。このサービスは介護が必要になっても住み慣れた家で生活ができるように2012年度からスタートした。要介護1~5の人が使える。
通常、訪問介護は原則1回、20分以上と利用の時間に制約があるが、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」の「定期巡回のサービス」は、短時間のケアを1日に何度も利用できる。自力でトイレに行くことができない人でも、ヘルパーがトイレの介助をしてくれるので寝たきり防止になる。週に1、2回、デイサービスに通うプランを組み合わせることも可能だ。具合が悪くなったときのため、「随時対応サービス」でケアコールの端末機とペンダント型のブザーが貸与される。これを押すと、24時間いつでも介護事業所のオペレーターと会話ができ(通話は実費)必要に応じてヘルパーを派遣する「随時訪問サービス」を受けられる。
ヨウコさんの母は亡くなる3年ほど前から認知症になり、要介護2と認定された。その母の世話をしていた父自身も心臓疾患を患い、介護が必要となってしまう。介護認定を受けると要介護1であった。
ヨウコさんには仕事もあり家庭もある。二人をデイサービスに通わせるのは困難だったので、同時に訪問介護が受けられるようにケアマネジャーに相談した。朝、昼、晩に30分間ヘルパーが入り、食事の世話、服薬の確認をする。訪問介護の時間は、一人あたり15分、二人で30分と事業所が配慮して決めてくれた。「それまでは夜中でも『お腹がすいた』『トイレに行きたい』と言い出しては、同じ敷地内に住む私を呼び出すので、夜も満足に眠れませんでした。このサービスを使ってからは、夜もぐっすり眠れて仕事の最中に呼び出されることもない。本当に助かりました」(ヨウコさん)
利用料は介護保険サービスの自己負担1割(または2割)なのでサイフも痛まない。いい制度なのだが、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」のサービスを展開する事業所は少なく、必ずしも自宅の近くでみつけられるわけではないのが欠点だ。ヨウコさんは幸いにも、歩いて5分ぐらいのところに事業所があったからよかったが、ヘルパーが頻繁に駆けつけることを考えると、自転車で1キロ圏内が限度。そもそもこうしたサービスを知らない利用者も多く、認知度を高めるためにも事業所が身近に増えることが求められる。
次の記事「認知症の母親を週5回デイサービスに通わせて仕事を続ける方法/介護破産(19)」はこちら。
淑徳大学総合福祉学部教授。1969年生まれ。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センターおよび民間居宅介護支援事業所への勤務経験がある。おもな著書に『在宅介護――「自分で選ぶ」視点から 』(岩波新書)、『孤独死のリアル』(講談社現代新書)、『介護入門 親の老後にいくらかかるか? 』(ちくま新書)など。
村田くみ(むらた・くみ)
ジャーナリスト。1969年生まれ。会社員を経て1995年毎日新聞社入社。「サンデー毎日」編集部所属。2011年よりフリーに。2016年1月一般社団法人介護離職防止対策促進機構(KABS)のアドバイザーに就任。おもな著書に『書き込み式! 親の入院・介護・亡くなった時に備えておく情報ノート』(翔泳社)、『おひとりさま介護』(河出書房新社)など。
(結城 康博、村田 くみ/ KADOKAWA)
長寿は「悪夢」なのか!? 介護によって始まる老後貧困の衝撃!
介護のために資産を失う「介護破産」が最近話題となっています。本書では現在介護生活を送っている人々の生の声をルポしつつ、介護をするにあたり知っておきたいお金のこと、法律面のことなどに言及。介護で将来破綻するような悲劇を防ぐための方法論を記した一冊です。