<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:大学進学を機に実家を離れて暮らしているせいか、実家の父(89歳)からは少々距離を置かれてしまっています。
「ああ、ウジか、ちょっと話しておきたいことがあってな...」
実家の近くに住む兄(61歳)から電話があったのは、4月に入ってすぐのことでした。
母(もうすぐ89歳)の誕生日が近いため、そのこともあるのかと思い、始めは気楽に話を聞いていました。
母はしばらく前から動くと息切れがひどいと言って、家にこもるようになっていました。
若い頃は趣味人で、あれこれと教室などに通っていましたが、それももう10年ほど前から沙汰やみです。
まあ、コロナ禍となった今ではかえってその方が心配ないかも、と思っていました。
母は高血圧の持病があり、そのせいもあってか心臓もかなり弱っているとのことで、ずっと病院通いをしていました。
それも院内感染などが怖いと言って、最近は投薬だけお願いして行かないようにしていたのですが、なんと兄は先日母を病院に連れていったというのです。
「こないだ親父(89歳)におふくろを病院に連れて行ってくれって頼まれてな...」
「え?」
「で、まあ連れて行ったら大事を取って検査入院をって話になって...」
「それはえらいことじゃないか、なるべく早く顔を見せに行くよ」
「いや、それがさ...この電話も内緒なんだよ、親父にはさ...」
「なんで?」
「心配かけたくないんじゃないの? 教えるなよって、きつく言われてさあ」
それでも電話をするぐらい、兄の目から見ると危険な状態だということなのでしょう。
実家を離れて、地方都市に生活の拠点を作った私を、父はよく思っていません。
コロナが蔓延してからは、帰省の申し出を「近所の目があって面倒だから来るな」と断られ続けているほどです。
弱みを見せるのを何より嫌がる人なので、今度の件もうなずけます。
まあそれでも、実家の近くに兄夫婦がマンション住まいをしているので、もしもの時は、とそれなりに安心はしていました。
「おふくろも年だからな、何かあったらすぐに帰れるようにはしておいてくれよ」
「いや、そんなに悪いのか、だったらやっぱり...」
「いや、お前が今帰って来たら親父がへそを曲げるのはもちろんだし、おふくろも、そんなに悪いのか、って思っちゃうかもしれないしなあ。すまんが、ちょっと我慢してくれよ...」
実家を離れてからはこんなことばかりです。
たまに帰ってみると、母が松葉づえをついていて、骨折して手術したなんて話を聞かされたり、すっかり足の弱った親父が杖なしには歩けなくなっていたり。
浦島太郎ばりのびっくり話には事欠きません。
今回も週に1度はかけている実家への電話では、おくびにも出さなかった事態です。
「とりあえず、今はこっちも検査の結果待ちなんだ。入院が長引くのかどうかも分からない始末さ」
「...ああ、分かったよ。しょうがない、連絡待ちしてるよ」
「そうか、すまんな、何か動きがあったら良くも悪くもすぐに知らせるようにするから」
「ああ、くれぐれも頼むよ」
兄にはそう言って電話を切りました。
その後、急を要する状態ではないという検査結果が出た旨の連絡はあり、ひとまず胸をなでおろしましたが、状態が安定するまでは入院を続けることになったようです。
兄の体面もあるし、母に妙な勘繰りをさせるのも悪いので、今は待機状態ですが、針の筵に座っている気分です。
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