成人式で暴れたのは"大人"たち...老人や政治家が跋扈する田舎の成人式の悲しい現実

<この体験記を書いた人>

ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:地方の小さな町の役場に勤めています。成人式は田舎町では一大行事で、この日にかけている人がたくさんいます。

成人式で暴れたのは"大人"たち...老人や政治家が跋扈する田舎の成人式の悲しい現実 28.jpg

「ああ、今日はいよいよ成人式か、気が重いなあ」

田舎町の役場の広報課に所属している私は、町の行事は取材を兼ねて必ず応援要員です。

せっかくの休日に出勤というだけでも気が重いですが、2021年の成人式はその思いもひとしおでした。

成人式については、今年はどこの役場でも頭を悩ませたことと思います。

我が町にあっては「中止する」という選択ははなから検討もされませんでしたが、さすがに例年通りとはいきません。

来賓は招かず、成人本人以外の参加も最小にとどめると公表したうえで縮小開催となりました。

「何だあ、孫の一世一代の晴れ舞台に立ち会えんとはどういうことだあ!」

受付を始めてすぐ、入口に怒声が響きました。

慌てて見に行ってみると、羽織袴に身を固めた老人と一張羅の紋付を着た老婦人、その他正装の7、8人が受付の係員ともめています。

わたしも係員と一緒に話を聞きましたが、一族で孫の成人式に出向いたようです。

成人を迎えた当の娘さんは困り顔で会場の入口に立っています。

「一家庭、ご両親の2名までとご案内をしておりまして...」

「そんなバカな話があるか。今まで成人した孫は、そのたび一族みなで臨席してだな...」

飛沫などお構いなしに怒鳴りたてる老人を、なだめ、すかして、ようやく会場外でお待ちいただくことで話が付きました。

ほっとする間もなく、今度は主催者席で何やらもめています。

「来賓席なんていらないから、な...」

「いや、そう言われましても...」

こちらは燕尾服に身を固めた白髪の紳士です。

その顔は見紛うことなき、我が町の議会議長様です。

「町長だけ挨拶ってのは不十分だろ? 議長が挨拶してこそだな」

「いや町長の挨拶もできるだけ短くということでやっているわけでして」

「せっかく 正装を整えてきてるんじゃないか、な、一言でいいんだから」

成人式とは、新たな票が生まれる日、というのが議員の偽らざる心情です。

臨席している家族にも絶好のアピールの機会と思っているのです。

「...このご時世、下手に挨拶した方が評判が下がるかもしれませんよ」

そっと耳打ちしてやりました。

「え、いやあ、挨拶しといて損にはならん...」

「ああ、あの議員さんは俺たちに飛沫を浴びせに来たんだなあ、って受け取る人もいますよ、きっと」

ここまで言われてようやっと引き下がっていきましたが、祝辞を掲示板に貼る約束をさせられ、余計な仕事が増えました。

なんとかかんとか式も滞りなく終了し、ほっとしたのもつかの間、今度は羽織に身を固めた新成人のグループが盛り上がっていました。

「これで酒が飲めるようになったんだぜ」

「そうそう、飲まずに帰れるかよ」

そんなことを言って意気を上げています。

田舎町ゆえテレビの取材などはありませんが、新聞社の連絡員ぐらいは取材に来ているため、このままではいいネタにされてしまいます。

会場の片付けもそこそこに、役場職員が全員集合でそのグループの周囲に散らばりました。

「ご苦労様でした。早くご家庭でお祝いをしてくださいね」

「まさか分別ある新成人がグループ飲み会などで、みそを付けることはないとは思いますが...」

そう声を上げ、阻止を図りました。

ばつの悪くなった新成人のグループは三々五々、会場を後にしました。

そのあと、どこかに集まっているかもしれませんが、そこまでは面倒は見切れません。

都会の成人式ならさすがに周囲の目もあり遠慮するのでしょうが、いま一つ危機感の薄い田舎町の悲しさを目の当たりにしました。

関連の体験記:「手伝いますよ」のひと言が命取り...44歳、義実家の町内会で「若手」と重宝される私の葛藤
関連の体験記:「少しだけど使って」コロナ禍の中、我が家に「ある届け物」をしに来てくれた義母の愛情
関連の体験記:「既読にならない方、賛成でいいですね?」LINEが流行り始めたころの「PTAグループトーク」の悲劇

健康法や医療制度、介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず事前に公的機関による最新の情報をご確認ください。
記事に使用している画像はイメージです。
 

この記事に関連する「みなさんの体験記」のキーワード

PAGE TOP