<この体験記を書いた人>
ペンネーム:めぴ
性別:女
年齢:49
プロフィール:認知症の父がいます。なるべく笑いに変えたい大阪人。
一人暮らしの大変さというと思い出される出来事があります。
7、8年前の気持ちの良い季節のことです。
「ん?」焦げ臭い匂いに、私はコンロに走りました。
しかし火の気はなく、不思議に思っているうちにも匂いは強くなっていきます。
ご近所で魚でも焼いているのかとドアから顔を出して、私はびっくりしました。
お隣の換気扇から、煙というより熱がボンボンと湧くように吐き出されているのです。
これで気づかないということは留守なのだろう、念のためインターホンを押しながら考えていると、下から「通報しました!」と声がかかりました。
マンションの2階からのぞくと、自転車の男性が携帯を持った手を振っています。
通りかかっただけのその人にも異常が分かったのでしょう。
お礼を言い、私は家主さんに電話しました(家主さんと言っても正確にはそのご家族で、管理人のような仕事をしていた30代の女性です)。
そのうちに消防車が到着。
あっという間に上がってきた消防士さんは、まず廊下に面したガラス戸に手をかけ、ガタガタと揺らしました。
「あ、中学の時、男子がやってたやつ!」
施錠された教室に入るのに、窓の鍵を力ずくで緩める方法です。
しかしいかにもベテランな消防士さんの手際は見事で、一瞬で窓は外れ、そのまま伸ばした手でフライパンが取り出されました。
作りが古く、入ってすぐ流しという間取りは当時不満でしたが、この時ばかりはそれが幸いしました。
フライパンの上には真っ黒なもの、私は「鶏肉だな」と思う余裕がありました。
解決したと安心していたからでしょう。
でもその後の展開に仰天することになりました。
「お隣の方ですか? 玄関の鍵がなぜか開かないのですが、中を確認しないといけないので、お部屋を通らせてもらってベランダから入りたいのですが」
そうお願いされたのです。
ええっ! へ、部屋、汚いんですが...。
だから無理とも言えず、私はナチュラルな散らかり具合を消防士さん達に大公開する羽目になりました...トホホ。
気まずい私の前で落ち着いて柵を越えていく消防士さん。
その時何か小さく声がし、突如空気が一変しました。
「要救助者一名!」という鋭い叫び。
(ドラマみたい、ほんとに言うんや)という能天気な感想の後、その言葉の意味がゆっくりと入ってきました。
「え、え、え?」人がいたの? それって...?
頭に浮かぶのは50代に見えた口ひげのお隣さんの姿と、悪い想像ばかり。
その間にも消防士さんたちは次々と隣室へ飛び込んでいきます。
到着していた家主さん共々、身体ががちがちになるほど緊張しました。
そこへ両脇を抱えられたお隣の方が現れた時、どれほどほっとしたことか。
無事だ、良かった!
どうしてこうなったのかは不思議でしたが、とにかく思ったよりお元気そうな姿に、今度こそ本当に安心できました。
このあと、消防士さんに状況を聞かれて、この日は終わりました。
後日、お隣さんがお礼に来られた際に伺ったところによると、火をつけてから突然の体調不良に襲われ、状況は分かっていたのに動けなくなっていたとのことでした。
消防士も帰ってから、家主さんが両手で私の手をきゅっと握って、「(私)さんがいてくれて良かったぁ」と言いました。少し涙目でした。
「いやあ、大事にならなくて良かったですねぇ」と返しながら、その日何度目かのゾクリとするものが来ました。
もし部屋に入るのがもっと遅れたら。マンションの中の階の出火、中には意識はあるけど動けない人...。
一人暮らしの人が突然倒れる、ということの恐ろしさを刻みつけられた出来事でした。
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