<この体験記を書いた人>
ペンネーム:めぴ
性別:女
年齢:49
プロフィール:認知症の父がいます。なるべく笑いに変えたい大阪人。
83歳で認知症の父は糖尿病で、糖分は減らすよう医者から言われています。
なのになぜか、砂糖たっぷりのコーヒーを一日何杯も飲みたがるようになったのです。
「もう飲んだし、やめとき」と言っても、飲んだ記憶がないので聞きません。
どうにかやめさせたいと、コーヒーや砂糖は隠すようにしました。
それでも見つけ出し、カップを手にしている時はため息をつくしかありませんでした。
1年ほど前のことです。
父と2人で留守番をしていたことがありました。
またまた、コーヒーを所望する父。
朝から一杯いれてあげたので、これは止めなければ。
「他のにしようよ」
「砂糖はやめるように病院で言われたやん」
「さっき飲んだし」
思いつく限り反対アピールをしても、なぜか父はコーヒーにこだわります。
「そうやなぁ」と同意しかけても、しばらくすると「コーヒー飲もうかな」に戻っていくのです。
体調が悪い自覚がないので、「体のために」は効き目がありません。
けれどもお医者さんにまたお叱りをいただくのは避けたい。
私は脳みそフル回転かつ笑顔で、他の飲み物を勧めていました。
と、それが功を奏したのか、父がインスタントのスープのパウチを手に取り、カップにさらさらと入れました。
「やった!」
私は内心ガッツポーズ。
「お父さんそれいいやん! あったまるし! 体にいいよ! それがいいわ!」
褒めちぎりました(スープを選ぶだけでこんなにも褒められると覚えてもらえれば...と思っているのは内緒です)。
じゃあお湯入れてあげるねーと電気ケトルを取りに行った、本当に一瞬のことだったと思います。
振り返ってカップを手に取ると、何か茶色いものがトッピングされていました。
「何これ?」
黄色っぽい粉末コーンスープの上に投入されていたもの、その香り、それはコーヒーでした。
しかもお湯で溶けるインスタントの粉でなく、豆を挽いた粉だったのです。
「ちょっと!」
私は叫んでいました。
「もう! なんでこんなん入れたん、飲まれへんやん!」
でも父は私が声をあげている理由がさっぱり分からないようです。
一体どこからこれを、あのわずかな隙に...と舌打ちしそうになりましたが、ともかく穏やかに説得しなければ。
「これ、お湯入れて飲むやつちゃうで。こうしたら飲まれへんよ。もう捨てて、入れ直そ」
優しい口調で言うと、なぜか父は不機嫌に「分かってる!」と口を曲げました。
「美味しいの飲もうよ、せっかくだから」そう言っても「分かってる!」。
「それ溶けないから、お湯入れてもだめだよ」「せめてコーヒーの粉だけ出すわ」、いくら言葉を重ねても、「分かってる」しか返ってきません。
分かってないよ!
そのうち勝手にお湯を入れたので、カップに妙な色の液体がなみなみと揺れていました。
上にはコーヒーの粉がプカプカ...そりゃ溶けませんもの、こうなりますよね。
「じゃあせめてその粉取ろうよ、漉すから貸して」呆れつつ手を出すと、また「分かってる!」が来ました。
ついに私も「あーもう! じゃあ飲みや! 美味しくないで!」と言葉をぶつつけてしまいました。
なんでこんなとこで無駄に意志強いんよ、という腹立ちと、父を止められなかった無力感に苛まれながら、横目で父がカップを口に近づけるのを眺めていました。
父は上手に歯の隙間から吸うようにして、斬新なドリンクを摂取しています。
「そういうとこは器用なんだなぁ」
ぼんやり見ていると、父は不思議そうに一言。
「何飲んでるか分からんわ」
「そりゃそうやわ!」
我ながら会心の突っ込みでした。
本当は少し哀しかったのです。
でもそういうのは出したくなくて、やっぱりここは笑うしかありません。
私の「あははは!」が湯気に重なりました、父も笑いました。
すぐ「コーンスープコーヒー」は捨てました。
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