<この体験記を書いた人>
ペンネーム:のの子
性別:女
年齢:52
プロフィール:趣味はわんこと昼寝。
80代後半の母は、父が亡くなってから10年以上1人で暮らしています。
母の方から連絡してくることは滅多になく、こちらから電話をしても「元気、元気、何も心配しないで、じゃあね」と素っ気なく切ってしまいます。
近くに兄夫婦が住んでいるので、ちょくちょく様子を見てはくれていますが、私も子どもに手がかからなくなってきたので、出来るだけ顔を見せに行くようにしています。
私は3人姉兄の末っ子で、姉とは8歳離れています。
その姉が大学を卒業してすぐ結婚をしたので、なんとなくそういうものなのかと、あまり深く考えずに私も同じような年に結婚しました。
母は昔からサバサバした性格で、バリバリ働いてもいたので、必要以上に子どもに手をかけるタイプではありませんでした。
私も祖父母と同居していたので、おじいちゃん、おばあちゃん子で、母が家にいなくても寂しい思いはしませんでした。
そのせいか私は母にベタベタ甘えた覚えもなく、成長してからはなんでも事後報告。
結婚に関しても「大学を卒業したら結婚する」「あらそう、良かったわね」といった感じ。あっさりしたものでした。
私に子どもが生まれ、里帰り出産でしばらく実家にいて、あと数日で自宅へ戻る予定にしていた時のことです。
姉や兄にもすでに子どもがいて、初孫というわけでもないので、私の子どもに対する対応も慣れた感じだった母。
沐浴を手伝ってくれたり、オムツを替えたりしてくれましたが「家に帰ったら1人でやらないといけないんだから、今のうちから頑張んなさい」と極力手を貸さないスタンスでした。
実家は少し離れたところにあったので、私も出来るだけ頼らずにいようと思っていました。
姉は出産後も仕事を続けていたのでどうしても、という時には母に助けてもらっていたようですが、「ちゃんと謝礼は払っている」というビジネスライク(?)な関係だったようです。
私はしばらくは育児に専念するつもりだったし、働き始めても「母に謝礼を渡せるほどは稼げないかな?」と思っていました。
なんとかオムツ替えにも慣れ、母乳も順調に出て、赤ん坊の世話をする私をしばらく眺めていた母がふと「もう少しで帰るんだね」とつぶやきました。
私に話しかけているというよりも独り言のような声で「あんたに子どもが出来るなんてねえ、早いねえ。もうそんな年になったんだねえ」と。
いつになくしみじみした母の声に戸惑って「私が帰ったら寂しいでしょう」と冗談交じりに言うと...
「そりゃ寂しいよ」
母がそうきっぱりと言うので驚きました。
「あんたにはもっと家にいて欲しかった。上の子はさっさと結婚したけど、あんたは年が離れていたし、遅くにできた子だったから可愛かった。お父さんとも寂しくなったねえって言ってたのよ。それが子どもを産んで帰ってきてくれて嬉しかった。でももう、帰っちゃうんだもんねえ」
私はなんと答えていいのかわからず、赤ん坊をあやしながら「おばあちゃんは寂しがり屋さんだねえ」と母の顔を見ずに言うのが精一杯でした。
初めて聞いた母の本音でした。
あんなに気丈だった母もさすがに年をとったな、と思わせる言葉に、嬉しいような寂しいような複雑な...
けれど、ほっこりした気持ちになったのです。
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