「あんたはいいわよね」がんと闘病する父に付き添う私に、母が言い放ったひと言

<この体験記を書いた人>

ペンネーム:ゆかり
性別:女
年齢:41
プロフィール:転勤族の夫、9歳、5歳の男の子2人の4人家族です。実家からは飛行機で2時間。遠く離れた関東で暮らしています。

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物心ついた時から、よその家と比べて自分の母親は厳しいなぁ、と思っていました。

母は小さな事で激昂して、一度お説教が始まると1時間でも2時間でも私を立たせたままで叱ります。

口を挟んだり反論をすると、その分時間が伸びるだけ。

ひたすら怒鳴られながら時が過ぎるのを待つ、という苦痛な時間を多く過ごしていました。

決して根っからの性悪ではないと思うのですが、母はとにかく「自分の考えが絶対」な人で、周囲の意見に耳を傾けません。

自分の思い通りにならないとまた長時間のお説教が始まります。

いつの頃からか、家族の中で母に逆らう人間はいなくなり、ただ母の怒りが静まるのを待つ、または怒らせないように自分の意見を曲げてでも母に従う、そういった生活を、家族皆がするようになりました。

特に私は、同性だからか怒りの矛先を向けられる事が多く、「自分の思い」よりも「母に叱られる」方が嫌で、母親の言うなりになっていました。

やりたい習い事があっても口には出さず、友達からショッピングに誘われても「行くな」と言われるのがわかっているので最初から断り、彼氏が出来ても反対されれば別れる...。

そんな調子で進学も、就職も、挙句の果てには結婚相手も母が気に入る通りの選択をしてきました。

結婚した相手は転勤族なので全国を転々としていますが、おかげで母と距離を持って付き合えるので、これはこれでホッとしていました。

でも今年の春、私にとって心からショックなことが起こりました。

父ががんを患っていることが判明したのです。

発覚した時には既に手術も出来ない状態。

今は抗がん剤で治療を続けています。

母とは違い、これまで父にはコソッと本音を話したり、電話で「お母さんには内緒ね」と、互いにちょっぴり愚痴めいたことを話してみたり...と、母に対するモヤモヤした心情を共有できる仲間のような想いがありました。

そんな父をなんとか近くで看病したい...。

でも、私が住んでいるのは関東、実家は九州です。

まだ幼い子供がいる私は、本来ならば簡単には帰省できる状況ではありません。

でも、居ても立ってもいられず、夫に頼み込み、時間を見つけては数日でも実家に帰り、父の治療に付き添ったり、母の代わりに家事を済ませたり、主治医の先生に今後の治療方針を相談したりと、出来る限りのことをするようになりました。

ですが...こんな状況でも母は母でした。

病床で治療に耐える父に対して、相変わらず些細な事で腹を立て、大声で怒鳴ったり、そのまま「もう離婚するから」と捨て台詞を吐いたり...。

母の言動や行動に口を挟むと余計怒りが増す事が分かっているので、私は「お母さんも毎日看病で疲れてるよね、あまり手伝えなくて悪いね、ごめんね」などと声を掛け、母をとにかく穏やかな状態にしておくことしかできないのでした。

先日も、少しでも母を明るい気分にしたくて、「さっきお父さんが治療を頑張る、前向きな気持ちになってきたって言ってたよ、良かったね」と話しかけたのですが、返ってきた返事は...予想外でした。

「あんたはいいよね、お父さんの気分の浮き沈みに付き合わなくていいから。家に戻れば看病もない普通の生活でしょ。こっちはそうはいかないんだから」。

さすがにショックでした。

「もういい加減にして! どうして人の気持ちを分かってくれないの? 私だって毎日看病したいのに、家族にお願いして何とか帰省してるんだよ? もっと人の気持ちを考えて!」

そう言い返したくなりましたが、母をまた怒らせるとその矛先が父に向かってしまうので、いつものようにその感情を飲み込む自分がいました。

これからも父の闘病は続きます。

少しでもストレスなくゆったりした気持ちで過ごして欲しいと思っています。

そのために私が出来ることを模索しているところです。

この母へのストレスをどう消化したらいいのか分かりません。

こんな母親でも心底嫌いにはなれないのが辛いところなのです。

幼少からのモヤモヤを私はいつまで抱えていくのか......終わりが見えません。

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