【カムカムエヴリバディ】三代目ヒロイン誕生だけじゃない! 「感情大忙し」のサブストーリーの数々

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「感情が大忙しのサブストーリー」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】藤本有紀脚本のドSぶりが光る!? 幾度も繰り返される「別人格の悲しい嘘」

【カムカムエヴリバディ】三代目ヒロイン誕生だけじゃない! 「感情大忙し」のサブストーリーの数々 pixta_63377327_S.jpg

ラジオ英語講座を軸に、3世代ヒロインの100年の物語を紡ぐ、藤本有紀脚本のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の13週目。

今週はゾクゾクするほどに、様々な象徴的モチーフの重なり合いやつながりが描かれた週だった。

トランペットが吹けなくなった錠一郎(オダギリジョー)のもとに通うるい(深津絵里)だが、それを拒否する錠一郎。

しかし、ある日、ラジオから流れてきた「On the Sunny Side of the Street」を聴くうち、錠一郎のもとに駆け出す。

いつの間にかこの曲が、母との悲しい記憶から、錠一郎との思い出に変わっていることに、グッと来てしまう。

しかし、宿に錠一郎の姿はなく、トミー(早乙女太一)の車で以前ドライブした海へ急ぐ。

そこには海の中にたたずむ錠一郎の姿があり、「歩いても歩いても暗闇しかないんや」「サニーサイドが見えん」とつぶやくが、るいは言う。

「私が守る。あなたと二人ひなたの道を歩きたい」

これは、るいが「自分を捨てた」と思っている母・安子(上白石萌音)と父・稔(松村北斗)が結ばれたときの象徴的セリフと重なる。

物語の展開的にも、画的な美しさも、伏線回収としてもクライマックスであり、普通の朝ドラなら、間違いなく金曜か土曜に放送されたはずのシーンだ。

しかし、これはまさかの週前半で、ここから幾度も笑いと涙で感情を揺さぶるのが藤本有紀脚本ならでは。

るいはお世話になったクリーニング店の平助(村田雄浩)と和子(濱田マリ)のもとを離れ、錠一郎と2人、京都で暮らすことに。

京都と言えば、2人の頼もしい味方・ベリー(市川実日子)で、ベリーの本名が「野田一子」で、「一子→いちご→ベリー」だったこと、茶道の師匠の母の後を継いでお茶の先生をやっていることなどが発覚。

そして、北野天満宮で立ち並ぶ縁日を見るうち、回転焼き屋を営むことを決意するるい。

かつて安子が教えてくれた、あんこが美味しくなるおまじない「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」が蘇ったのだ。

安子が父・金太(甲本雅裕)から習い、幼いるいに教えたことが、ここで生かされるとは。

しかし、当初は全く売れず、そこで "良家の令嬢でお茶の先生"一子が味を認め、売ってくれたことで、近所の評判も上々に。

トミーといい、ベリーといい、「持てる者」がその力を他者のために使ってくれる、なんとも優しい世界だ。

しかし、大きな課題は、錠一郎がトランペット以外、何もできないこと。

錠一郎の分まで働くるいの過労は心配になる

そこで、るいは錠一郎にできる仕事を作るため、配達用の自転車を入手するが、錠一郎は自転車に乗れず......。

錠一郎の自転車の練習に付き合うるいの姿は、かつて安子が稔に教えてもらっていた姿と重なる演出となっているのが、心憎い。

そして、近所の子どもたちにも教えられながら自転車の練習をする錠一郎の姿は微笑ましい。

と思ったら、その後すぐにるいは過労で倒れてしまう。

ここで安子の過労と重なりヒヤリとするが、実はるいは妊娠しており、三代目ヒロイン・ひなたの誕生までが今週描かれたのだ。

結婚により、戸籍に初めて家族ができたという錠一郎のナレーションだけで泣きそうになるのに、子どもまで......。

何もできない錠一郎が、るいの妊娠・出産中、どうやって店を切り盛りしたのか不安になるが、そこはきっと一子や近所の人たちが支えてくれたのだろうと察することができる背景描写の巧さを、ここで改めて感じる。

そして、ここまでが『カムカム』メインストーリーの情報。

今週はまさかの「モモケン」こと桃山剣之介の死去→父親そっくりの2代目「桃山団五郎」のニュースがテレビで登場。

世紀の駄作と言われた「棗黍之丞(なつめきびのじょう) 妖怪七変化」に影響を受けた錠一郎が、その訃報に滂沱の涙を流した後、モモケン息子の団五郎が「けったい侍珍道中」で笑いをとる様子を見るつながりは、見事。

しかも、舞台が岡山→大阪→京都に移行しても、「黍之丞」「団五郎」=きび団子で、るいと安子のルーツ・岡山とつながっているのも、嬉しい。

さらに、驚かされたのは、安子編で天使のようだった吉右衛門の再登場。

安子編で荒物屋を営んでいた父・吉兵衛(堀部圭亮)は、息子・吉右衛門にケチぶりを否定された直後、戦争で吉右衛門を守って命を落としていた。

吉右衛門は血を受け継ぎ、るい編で父とそっくりな「二代目ケチべえ」になっていたのだ。

しかし、それは母や店を必死に守ってきた結果であることに、思わず笑い泣き。

しかも、吉右衛門ちゃんの幼少期の母役だった宮嶋麻衣が、年齢を重ねて松原智恵子になったと思ったら、今度は宮嶋麻衣がそば屋として再登場し、二代目ケチべえが思いを寄せている様子。

ちなみに、宮嶋麻衣は藤本有紀脚本『ちりとてちん』の親友枠・順ちゃんで......と、まだまだ全然書ききれないサブストーリーに感情が大忙しの13週目だった。

文/田幸和歌子

 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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